2019.10.10

王様・カントナ、「カンフーキック」事件
の名言。練習相手はベッカム

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

スポルティーバ・新旧サッカースター列伝 第6回

サッカー界には、問題行動を数多く起こし「異端児」扱いされながらも、溢れる才能を見せてファンにものすごく愛されたスーパースターたちがいる。今回からの新旧サッカースター列伝は、そんな「破格」のプレーヤーたちを紹介していく。

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フランスで異端児、イングランドで王様

「カモメがトロール船を追うのは、鰯が海に投げ込まれると考えているからだ。どうもありがとう」

90年代にマンチェスター・ユナイテッドで大活躍した、エリック・カントナ“カンフーキック事件”後の記者会見、エリック・カントナはこう言って会場をあとにした。集まった記者たち、ポカーンである。

 あまりにも有名な事件なので簡潔に記す。1995年1月25日、クリスタルパレス戦で退場になったカントナが、ロッカールームに戻る途中で観客のマシュー・シモンズに暴言を浴びせられ、跳び蹴り食らわせたうえに数発殴った。観客席に躍り込んでの暴行に英国中から非難囂々(ごうごう)。そして、あまりにも有名になったセリフが「カモメが……」であった。スキャンダルに群がるメディアをカモメに喩えたわけだが、カンフーキック事件についてはのちにこう話している。

「最高の瞬間? たくさんあるけど、1つ選ぶならフーリガンに蹴りを入れた瞬間だな」

 武勇伝には事欠かない。オセールとプロ契約を結ぶと、さっそくチームメートのブルーノ・マルティニの顔面をパンチして罰金を科されている。88年にはナントのミシェル・ザカリアンに危険なタックルをして出場停止3カ月間、危険な「タックル」というより正真正銘の跳び蹴りだった。

 フランス史上最高額の移籍金でマルセイユに移籍してからも問題行動は変わらず、交代に怒ってボールを客席に蹴り込みユニフォームを投げ捨てて、クラブから出場停止1カ月。フランス代表でもアンリ・ミシェル監督をテレビカメラの前で侮辱して国際試合出場停止1年間。手を焼いたマルセイユからの貸し出し先のモンペリエではチームメートにスパイクを投げつけて活動禁止10日間。ニームに移籍すると主審の判定に不服でボールを投げつけて出場停止1カ月、その聴聞会で委員に「バカ」と言って2カ月に加算された。91年12月16日、カントナは引退宣言する。