SBがゲームを仕切る。戦術変化が生んだ「10番」ダニ・アウベス

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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スポルティーバ・新旧サッカースター列伝 第1回

サッカーの現役スーパースターやレジェンドプレーヤーの逸話をつなぎながら、その背景にある技術、戦術、社会、文化を探っていく連載。第1回は、今、母国を熱狂させていることで話題の、稀代の名サイドバックから。

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サンパウロの背番号10

 母国ブラジルでプレーするのは17年ぶり。もともとファンだったというサンパウロに加入したダニエウ・アウベスは、デビュー戦でさっそくゴールを決めている。

サイドバックから進化したダニエウ・アウベスが、トップ下として活躍しているサイドバックから進化したダニエウ・アウベスが、トップ下として活躍している サンパウロには、アトレティコ・マドリードを退団したフアンフランも移籍してきた。フアンフランとダニエウ・アウベスはどちらも右サイドバック(SB)なのでポジションが重なりそうだが、ダニエウ・アウベスの背番号は10番なのだ。ポジションもトップ下だった。

 もともとMFだったプレーヤーがSBをやっていただけで、元に戻ったにすぎないというケースはよくある。ジョバンニ・ファン・ブロンクホルストがそうだった。フェイエノールトやアーセナルではMFだったが、バルセロナで左SBに転身し、そのままオランダ代表でも定着した。

 日本でもプレーしたレオナルドも一時期はSBでプレーしていたし、セレソンの名SBだったジュニオールも同じ。レオナルドもジュニオールも、後にMFに戻っている。パウル・ブライトナー(西ドイツ/当時)もこのパターンである。1974年西ドイツワールドカップで優勝したときは左サイドバック、1982年スペインワールドカップに準優勝したときはMFだった。

 しかし、ダニエウ・アウベスはそうではない。13歳からずっとSBだった。バイーア、セビージャ、バルセロナ、ユベントス、パリ・サンジェルマン、そしてブラジル代表でも。ありがちな10番のSBへのコンバートではなく、SBでプレーするうちに10番の資質を身につけていった珍しい例なのだ。

 コパ・アメリカでMVPを獲得したダニエウ・アウベスのプレースタイルは、10番とSBの混合といっていい。右SBとしての役割を果たしながら、組み立ての軸となり、チャンスを作り、自らも得点した。36歳にして新境地を拓いていた。

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