仏リーグ独走のPSG。フランス語に定着した「ズラタンする」 (3ページ目)
ブランによれば、PSGに金を投じれば、ビジネス雑誌に広告を載せたり、オリンピックを2週間開くよりも、世界の注目を集められる可能性がある。それにPSGはイングランドのビッグクラブを買うより安いと、フランスのシンクタンク国際関係戦略研究所(IRIS)の所長でパルク・デ・プランスの常連でもあるパスカル・ボニファスは言う。
確かにカタールは、2022年に開催するワールドカップよりPSGから大きな宣伝効果をあげている。ワールドカップをめぐってはカタールを支持した投票について買収疑惑が持ち上がっているし(カタール側は否定している)、スタジアム建設に携わっていた移民労働者の死亡事故が相次いでいるとも報道されている。
カタールの資金がピッチの中でPSGを押し上げるには、それなりに時間がかかった。2011~13年にPSGの監督を務めたカルロ・アンチェロッティは昨年12月、新しい仕事場であるレアル・マドリードのオフィスで僕に言った。「PSGではとても低いレベルから、すべてをつくっていかなくてはならなかった」。そのころPSGの選手たちは、人種・国籍別の派閥に分かれていた。「南米組、フランス組、それからイタリア組。それぞれの関係はけっこう厄介でね。南米組は自分たちだけでプレイしたがったし、イタリア組もそうだった」
「選手たちは勝者のメンタリティーを持っていなかった」と、アンチェロッティは言う。選手は午前中の練習が終わると、午後1時にはいなくなった。「この習慣を変えるのは簡単ではなかったが、イブラヒモビッチがいてくれて、とても助かった。プロ意識を持つクラブ最高の選手だから。イブラヒモビッチは練習でも、ほかの選手の見本だった。とにかく集中を切らさない」
イブラヒモビッチはPSGをよみがえらせた。年俸1400万ユーロ(約19億6000万円)といわれるこのスウェーデン人FWは、パリにやって来たときからPSGを見下すような態度だった。それはそうだろう。2011年まで彼は8シーズン連続で(しかも3つの国で)リーグタイトルを獲得していた。当時のPSGにはリーグ連覇の経験がなかった。
イブラヒモビッチがホテル・ブリストルの1泊3000ユーロ(約42万円)のスイートに引っ越したころ、フランスの有名なテレビ風刺番組『レ・ギニョル・ド・ランフォ』が「ズラタン人形」を登場させた。トゥールーズとの試合の前に番組で「インタビュー」されたズラタン人形は、これからPSGがどんなチームと戦うのかまるで知らなかった。それからズラタン人形は、たどたどしいフランス語でトゥールーズ戦の戦略を明かした。
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