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Jリーグの注目は水と油の「東京ダービー」 なのに監督の「色」が語られないのはなぜか (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【対立構造の重要性】

 かつて筆者は欧州で、現地の評論家、解説者、ジャーナリストなどからこの手の対立関係を教示してもらった。せっせと勉強させてもらうことができた。

 スペインを訪れれば、当時レアル・マドリードの監督だったジョゼ・モウリーニョ(現フェネルバフチェ)と当時バルセロナの監督だったジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)の違いについて、誰もが饒舌かつ丁寧に、一介の日本人のライターにもわかりやすく伝えてくれた。攻撃的サッカーの先駆者である故ヨハン・クライフに至っては、当時、守備的サッカーが蔓延していたイタリアサッカーについて、けちょんけちょんに貶したものである。

 Jリーグを伝える側も、取材歴の浅い記者ならともかく、元選手や監督予備軍で構成されるテレビ解説者なら、町田対FC東京の関係が面白そうだということぐらいわかるはずだ。だが、自分の立ち位置は知られたくない、敵を作りたくないという気持ちがある。言質を取られたくないとSNSの反応を恐れる。もし彼らが将来、監督になっても、黒田監督や松橋監督のようにはならないだろう。自らのスタイルについて曖昧な言葉で濁す森保一監督タイプになるに違いない。

 一方で、筆者の前で守備的なイタリアサッカーをけちょんけちょんに貶してみせたクライフにしても、けっして真顔だったわけではない。にこやかに笑いながら「これはあくまで私の趣味の問題だけれどね」と、極めてライトな口調で語りかけた。心の底から忌み嫌っている様子ではなかった。たかがサッカー。されどサッカー。それぞれのバランス感覚に絶妙に長けていた。人の生死をかけた政治や経済の深刻な話をしているわけではないのだ。

「趣味の問題だ」というフレーズは、元日本代表監督イビチャ・オシムも、こちらの問いに答える際、何度も用いていた。日本のサッカーに、「好き嫌い」がフランクに語れる時代は訪れるのか。ちなみに「国境なき記者団」が発表した「報道の自由度ランキング」で、昨年、日本は世界70位だった。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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