町田ゼルビアの黒田剛監督に拍手を 問題はロングボールが通用するJリーグのレベルにある (3ページ目)
【低レベル下では当然すぎる作戦】
プレミアがそのスペインに変わり、リーグランキングで欧州一の座に初めて就いたのが2011年。強いのは最初、上位の数チームに限られた。中位以下のチームには相変わらずロングボールを蹴り込む習慣が蔓延していたが、それも1年1年、数を減らしていった。
昔のプレミアを知る者にとって現在の姿は嘘のように見えるが、その目でJリーグを眺めると、10数年、遅れていることが判明する。SNSには町田のロングスローを揶揄する声が溢れているが、それが作戦として有効でないと思われる日が訪れれば、自然と消滅するのである。W杯本大会、あるいはチャンピオンズリーグを見れば一目瞭然。ロングスローを武器にしているチームに遭遇することは滅多にない。
高校選手権でロングスローが流行るのは当然だろう。守備者が泡を食いチャンスになる確率が高いからだ。GKのレベル、CBのレベルがある段階に上がるまで、じっと待つしかない。
低レベル下においては、むしろ当然すぎる作戦なのだ。3位の町田に加え、同類のサッカーに属する神戸がJ1で2連覇を飾ったことも、日本の現状を知るうえで重要な手がかりになる。
筆者は強引なサッカーを宣言し、実践する町田より、何も語らずに守備的サッカーを行なうチームのほうが、日本サッカー発展の妨げになっていると見る。町田のサッカーは俗に言う守備的サッカーとも一線を画している。守備は固いが、5バックで守りを固めようとするサッカーではない。
ハリルホジッチと森保監督を比較すれば、前者の方が敵役に相応しい存在に見えるが、逆である可能性も否定できないのだ。だが、Jリーグにいる森保タイプの監督は、黒田監督に向けられるような批判を浴びていない。すべての監督に言いたいのは、自分の哲学を、黒田監督のように積極的に語ってほしい、ということだ。
ロングスローは有効な攻撃の手段として何年後までJリーグに存在するか。ロングスロー禁止などと言う前に、それが無謀な悪手に映るレベルにリーグ全体を引き上げたいものである。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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