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川崎フロンターレ・鬼木達監督「涙の退任セレモニー」に違和感 「自分たちのサッカー」とは?

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第18回
杉山茂樹の「看過できない」

 Jリーグ最終節。等々力陸上競技場で行なわれた川崎フロンターレ対アビスパ福岡の一戦は、双方の監督が、それぞれのチームで采配を振る最後の試合となった。来季、鹿島アントラーズの監督に就任するのは川崎の鬼木達監督。その後任候補として有力視されているのが福岡の長谷部茂利監督だ。

 勝ったのは川崎。3-1の快勝で、スタジアムで行なわれた試合後のセレモニーに花を添えた。鬼木監督は、退任を惜しむ声が渦巻くなか、マイクを握ると、声を詰まらせ、半泣きになりながら最後の挨拶に及んだ。場内はこれ以上ないウェッティなムードに支配された。

 日本的な光景とはこのことである。中村憲剛の引退試合ならわかる。チョン・ソンリョンが帰国するというのならわかる。しかし鬼木監督は来季から、と言うより、大袈裟に言えば明日から、鹿島の監督に就任する。川崎にとって鹿島はまさにライバルチーム。敵将として近々、等々力を訪れるわけだ。禁断の移籍とは言わないが、プロ監督であるならばセレモニーは固辞すべきだった。川崎ファンも、ここはドライに、心を鬼にしてブーイングで送り出すべきだった。

Jリーグ最終節終了後に行なわれたセレモニーで声援に応える鬼木達監督(川崎フロンターレ)photo by Yamazoe ToshioJリーグ最終節終了後に行なわれたセレモニーで声援に応える鬼木達監督(川崎フロンターレ)photo by Yamazoe Toshio 監督会見の席上でも、鬼木監督はたびたび声を詰まらせた。鹿島の監督に就任する後ろめたさを見せることはなかった。来季、どんな顔で等々力の会見場に現われるのか。注目ポイントとしてチェックしておきたい。

 その席上で鬼木監督は「ラスト5試合の戦いは自分たちのサッカーができた」と述べている。来季、もし福岡の長谷部監督が川崎の監督に就任すれば、この「自分たちのサッカー」は一変するはずだ。水と油とまでは言わないが、川崎と福岡とのサッカーの違いは、この最終戦でも鮮明になった。

 だが、「自分たちのサッカー」が来季、一変しそうなことを問題視する声は聞こえない。それは色、カラー、もう少し言えば哲学だ。もし長谷部監督が来季、川崎の監督に就任すれば、これまでの色が一変することになる。「自分たちのサッカー」が、クラブの財産でなくなるのだ。

 ところが、川崎が今、2017年から積み上げてきた色を放棄しようとしていることに敏感になる人は少ない。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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