バイエルンからサガン鳥栖へすぐに移籍のオファー。福井太智の才能を証言で解剖する (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

【スタッフ、選手が認めるその資質】

「数週間、バイエルンでトライアルを受けて帰ってきた後、すごくいい動きをするようになりました。彼のようなタイプは、違った環境に飛び込むことで予期しない成長ができるんじゃないかな、と思ったんです。本人の口から、移籍に向けた強い決意が出てきたので、"ヨーロッパのマーケットに若いうちから入るのも悪くない"と判断しました。バイエルン(セカンドチーム)のほうが試合に出る選択肢は多かったし、何より彼の意志を尊重しました」(小林)

 福井はプロ選手として移籍金を残し、堂々とドイツへ旅立つ。

 ただ、世界のトップクラブで栄光をつかむのは簡単ではない。ひとつ忘れてはならないのは、あくまで(セカンドチームが在籍する)4部のクラブからのスタートで、バイエルンに移籍するわけではないということだ。

「太智はバイエルンで、ストロングのところが評価されたようですね。課題はあっても、4部で鍛えてどうにかなるっていうことなのかなと」

 鳥栖のアカデミー・佐藤真一ダイレクターは言う。

「本音を言えば、Jリーグで土台を作ってから挑戦しても、とも思いました。でも、こうしたチャンスは巡り合わせでもありますから。それに、太智はとにかく弱音を吐かない。環境のなかで成長できるはずです。冗談で、『半年で帰って来るなよ』とは言っています」

 佐藤ダイレクターは柔らかい笑顔でエールを送った。

 一方で、鳥栖のチームメイトである小野裕二は言う。

「太智はめちゃくちゃうまいですよ。でもバイエルンが決まって、周りは騒ぐけど、まずは鳥栖で試合に出られるようじゃないと。練習でよかったら、監督は必ず使う。自分も10代の時に注目されて、どうすべきかわからなかったから、アドバイスできないですけど(苦笑)。ユースだけでなく、トップでも練習から"できるプレー"を見せないと。そこは、彼のこれからの将来を分けると思います」

 それは愛のある叱咤と言える。プロの世界で、停滞は後退を意味する。日々のトレーニングで序列はひっくり返るのだ。

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