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イニエスタ・ワールド開幕。一瞬でヴィッセル神戸のコンビネーションは活発になった (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

狙いすまして槙野智章の頭に

 チームの成熟度では劣ったが、圧倒的な個の実力と経験で、歯止めを利かせていた。そして相手に勢いを与えなかったことで、運も転がり込む。

 後半13分、浦和は明本考浩が接触プレーの延長線上で起こした暴力行為で、退場を宣告される。これで残り30分以上を、ひとり少ない状況で戦わざるを得なくなった。勝っている状況で自滅に近い。

「退場が、試合のターニングポイントになった」(浦和/リカルド・ロドリゲス監督)

 タッチライン付近で10分近く待機していたイニエスタは、まさに満を持して、ボージャンと代わってピッチに立っている。すぐに際どいパスを裏へ送る。ボールを引き出し、運び、つける。ひとつひとつのプレー精度が高く、それで攻撃に流れが出た。

 一瞬で、「イニエスタ・ワールド」になった。

 浦和は自陣での人海戦術で守ろうとするが、次第に疲弊していった。大きく蹴り出すだけのクリアは無残で、チーム機能が停止。逃げきりたいという気持ちが強すぎ、腰が引けた守備になってしまい、ボールホルダーにも寄せられない。

 すると神戸はイニエスタの独壇場となった。たとえ守備ブロックの外側であっても、フリーでボールを受けたイニエスタは、わずかな持ち出しの変化で、簡単にラインを破っている。そして後半42分、左サイドでボールを受けると、FKに近い状況で、狙いすましたクロスをディフェンスの背後を取った槙野智章の頭に合わせた。

「ボールホルダーにプレッシャーがかからなくなっていて、中のマークも外れてしまった」(柴戸)

 同点弾は運命的で、むしろ遅いくらいだった。

 神戸はイニエスタが入った途端に、個の力がチームの力に昇華されていた。それぞれの立ち位置ややるべき仕事が明確化。たとえば酒井は、水を得た魚のような攻め上がりからのクロスも見せている。相手が10人になった影響も少なからずあったにせよ、コンビネーションの活発化でプレーの精度も強度も倍加した。同点ゴールのアシストは、その一端にすぎない。

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