FC岐阜前社長がJリーグの2021シーズンを総括。「ホームタウン制度」や愛すべきチームへの思いも語った (3ページ目)

  • 恩田聖敬●文 text by Onda Satoshi
  • 写真:恩田氏提供

 またFC岐阜には「オレンターノ岐阜」という後援会組織があります。オレンターノ→俺んたの、これは岐阜の方言で「俺たちの」を意味します。この後援会名に込められた岐阜県への思いをわかっていただきたいのです。

 ホームタウンの概念がなくなったら、ホームタウン活動はどうなるのでしょうか? 

 私は社長時代に一度だけ激昂したことがあります。ホームタウン活動に追加報酬を要求する選手がいると聞いた時です。私はすぐさま強化部長を呼びこう言いました。「誰のおかげでサッカーが出来ていると思ってるんだ! 文句を言ってる選手を俺の前に連れて来い! その場でクビにしてやる!」私は本気でした。ホームタウン活動は岐阜県とFC岐阜を繋ぐ基本的活動です。それを軽んじる選手はFC岐阜には必要ないと思ってました。

 ここまで述べたのは全て私見であり、今のFC岐阜関係者がどうお考えかは知る由もありません。

 私は、FC岐阜の歴史に携わった身として申し上げます。岐阜県に元々ゆかりなどない身ながらFC岐阜をJリーグ参入まで導いた今西和男元社長、危機的経営状況の中で火中の栗を拾い現在の筆頭株主を探し当てた薫田大二郎元社長、岐阜愛だけなら誰にも負けない私、見事な経営手腕でFC岐阜を安定軌道に乗せた宮田博之社長。これまで受け継いできた道のりには『地域に根ざしたサッカークラブを創る』という共通の志があったはずです。それはサポーターやスポンサーも同じだと思うのです。

 今でもJリーグ参入を夢見て地域で歯を食いしばって頑張っている人たちに向かってホームタウン辞めますとは少なくとも私は口が裂けても言えません。

 私も経営者の端くれなので企業には変化が必要不可欠なのはよくわかります。しかし絶対に変わってはいけないものがあります。それは企業理念です。

 ホームタウンの概念は、Jリーグの根幹である企業理念だったはずです。少なくとも私はそう理解しています。企業理念を変えるということはすなわち別会社になることを意味します。

 今後のJリーグの変化がJリーグの礎を築いて来た方々を悲しませる結果とならないことを祈るばかりです。そしてFC岐阜関係者の皆様には今一度原点に戻って、FC岐阜のミッションは何かを真剣に考えて頂きたいと思います。

FC岐阜元社長 恩田聖敬

【Profile】
恩田聖敬(おんだ・さとし)
1978年生まれ。岐阜県出身。京都大学大学院航空宇宙工学専攻修了。新卒入社した上場企業で、現場叩き上げで5年で取締役に就任。その経験を経て、Jリーグ・FC岐阜の社長に史上最年少の35歳で就任。現場主義を掲げ、チーム再建に尽力。就任と同時期にALS(筋萎縮性側策硬化症)を発症。2015年末、病状の進行により職務遂行困難となり、やむなく社長を辞任。翌年、『ALSでも自分らしく生きる』をモットーに、ブログを開設して、クラウドファンディングで創業資金を募り、(株)まんまる笑店を設立。講演、研修、執筆等を全国で行なう。著書に『2人の障がい者社長が語る絶望への処方箋』。2018年8月に、気管切開をして人工呼吸器ユーザーとなる。私生活では2児の父。

※ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだん痩せて、力がなくなっていく病気。 最終的には自発呼吸ができなくなり、人工呼吸器をつけないと死に至る。 筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、運動をつかさどる神経が障害を受け、脳からの命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉が痩せていく。その一方で、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通。発症は10万人に1人か2人と言われており、現代の医学でも原因は究明できず、効果的な治療法は確立されていない。日本には現在約10000人の患者がいると言われている。

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