C大阪戦不発も適応力は驚異的。
久保建英は狂騒を力に転換できるか
試合前のウォーミングアップ、空気はわりと乾いていたが、5月にしては異例の強い日差しが降り注いでいた。
通路からスタジアムに出てきた久保建英(FC東京)は、ピンクのビブスをつけ、ゴール裏のサポーターへ挨拶に向かう。番号は10だった。挨拶を終えた後、頭をかきながら、ゆっくりとピッチに進む。2人一組でのボールを使ったアップは、同じサイドの室屋成と組み、ボールの感触を確かめる。ひととおり終わると、水分補給のボトルを手にとった。ごくりと喉を潤すと、今度は5対5の球回しでボールを追う――。
その一挙手一投足に、人々の注目は集まる。初めて日本代表入りし、6月のコパ・アメリカにも出場する17歳をめぐる報道は、狂騒に近くなっていた。
試合後、久保は「体調」を理由に、取材ゾーンには出てこなかった。セレッソ大阪に敗れ、憮然とした表情で引き上げる久保建英(FC東京) 5月25日、ヤンマースタジアム長居。セレッソ大阪戦で、久保は先発でピッチに立っている。右サイドのアタッカー。もはや、定位置と言えるだろう。
直近のジュビロ磐田、コンサドーレ札幌戦で2連発。エースの風格すら漂いつつあった。そんななかでの代表入りだ。
「左利きだし、ボールを持たれると怖い選手。スピードもある。とにかく、中に自由に入らせないようにした」
セレッソの水沼宏太が洩らしていたように、チームとして久保を警戒していた。特別な戦術対策やマンマークをつけるなどはしていない。あくまで組織だった守備をしただけだが、ボランチの藤田直之が左サイドにずれ、常に左サイドバック、左サイドハーフと三角形を作り、久保をその中に沈め、動きを封じた。
結果として、この日の久保の動きは鈍かった。
そもそも、ボールが入らないという問題もあった。FC東京の選手の動きは全体的に精彩を欠いていた。それは連戦によるものか、敵地での異常な暑さによるものだったのか。
久保はボールが来ないことに焦れたのだろう。何度となく、逆の左サイドまで流れ、プレーに関与している。しかし焦燥からか、得意のドリブルはひっかけられ、ラストパスを出しても受け手とのタイミングが合わなかった。
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