「じげもん」が見たV・ファーレン長崎、苦節14年で万感のJ1初陣

  • 藤原裕久●text by Fujihara Hirohisa photo by Masashi Hara/Getty Images

「大丈夫! 今日も僕の長崎は元気だ」

 V・ファーレン長崎が発足した2005年、地元出身(=じげもん)の筆者は、チームの練習を見るたびにそう呟いていた。当時、チームは選手の多くがサッカー以外の仕事を持っていたため、夜練習が中心で、そこへ毎晩のように通い詰めていた。

 予算の都合で照明を半分しか使えないので、グラウンドはいつも薄暗い。土のグラウンドで、表面が剥げたボールには前のチーム名である「有明」の文字が残り、遠征には「国見高校」と校名の入ったバスを借りて行き、練習時間をオーバーして照明を落とされたときは、車のライトを照明代わりにして慌てて撤収作業に取りかかる。

 そんな状態の何もないクラブだったが、自分の街に、全国を、世界を、頂点を目指すクラブが誕生したことが嬉しくて、いつも練習場にいた。苦しいときも楽しいときも、練習を見て元気をもらうのが日常だった。

湘南ベルマーレとのJ1開幕戦に挑んだV・ファーレン長崎イレブン湘南ベルマーレとのJ1開幕戦に挑んだV・ファーレン長崎イレブン それから13年後の2月24日。地域リーグ、JFL、J2と戦いの場を移しながら、国内最高峰のJ1にまで駆け上がったクラブは、初のJ1開幕戦に臨もうとしていた。

 試合前にピッチからスタンドの様子を眺めていると、高木琢也監督が「湘南、やっぱり変えてきたね」と声をかけてきた。相手監督との駆け引きや読み合いをするときの高木監督は、勝負に向かう厳しい表情の中に、どこか楽しんでいるところがあることを筆者は知っている。この日の顔にもそんな感じが漂っていた。いつもの調子だ。

 スタジアムの入場口で会った竹村栄哉強化部長も同様だ。彼の現役時代から数えて今年で11年目の付き合いとなるが、「いい試合は絶対できると思うんで。だからこそ勝ちたいですね」と語るその表情は昔と変わらず、力みや緩みは感じられない。

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