巻誠一郎にとってのサプライズ選出「W杯後の僕のストーリーで言えば、むしろ代表に選ばれないほうがよかった」
私が語る「日本サッカー、あの事件の真相」第28回
サプライズ選出された男が見た「史上最強」と呼ばれた代表の実態(4)
◆(2)巻誠一郎が見たドイツW杯の舞台裏「ギクシャクした空気が表面化」>>
◆(3)ブラジル戦に先発した巻誠一郎「もしかして」と思ったが...>>
2006年ドイツW杯後、ジェフユナイテッド千葉の監督だったイビチャ・オシムが日本代表監督に就任した。日本のファン、サポーターの多くは大いに歓迎したが、ジェフのサポーターや関係者からは、オシムを無条件に引き抜かれてしまったクラブに対して批判の声が挙がった。
巻誠一郎も複雑な気持ちを抱えていた。
「ドイツW杯でひとつも勝てなかった日本のサッカーに足りないものを、オシムさんなら補って克服し、さらに強い日本代表をつくってくれるんだろうな、という期待はすごく大きかったです。
でもその反面、ジェフにはオシムさんがいて、毎日練習するなかで(チームも、自分も)うまくなっていくのが実感できていた。これからオシムさんがいないなか、自分が成長していけるのか。もしかすると、自分の成長が止まってしまうんじゃないか。そう考えると、すごく不安でした」
巻はドイツW杯で見えた自分の足りないものを、オシムが指導する練習のなかでレベルアップしていきたいと考えていた。それこそが、プロ入りしてからの巻の成長のルーティンになっていたからだ。
ドイツW杯後、巻誠一郎はオシムジャパンでも奮闘していたが... photo by AP/AFLOこの記事に関連する写真を見る だが、オシム不在を嘆いてばかりはいられない。巻はすぐに気持ちを切り替えた。オシムから学びを得るには、代表に入らなくてはいけない。巻はそれまでとは異なる思いを、代表に抱き始めた。
「ジーコさんの時は、ジェフで一生懸命やっていることの延長戦という感覚で、『日本代表に入りたい』とかなかったですし、代表への意識も特別なものがなかった。でも、(代表監督が)オシムさんになってからは、『代表でも教えてもらいたい』『オシムさんと一緒にサッカーをやりたい』という気持ちがすごく強くなって、代表への意識がすごく変わりました」
オシムが日本代表を立ち上げた際には、「オシムチルドレン」と言われるジェフの選手たちが多数代表入り。練習メニューでは、彼らが見本となってチームの先頭に立っていた。巻も主力のひとりとして、オシムのチーム作りに大きな役割を果たしていた。
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