森保Jを待ち受けるリーガの名将。選手の胸を強烈パンチして送り出す

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki photo by AFP/AFLO

「試合に出る前の通路で、クーペルはめちゃくちゃ思い切り、拳で胸を叩いてくる。『どん』って。あれは本気で痛い」

 リーガ・エスパニョーラ、マジョルカでプレーしていた時代、大久保嘉人(ジュビロ磐田)は語っていたものである。

 それはエクトル・クーペル監督の"戦いの儀式"だった。先発メンバーの胸をひとりひとり、拳に力を込めて叩く。気合い注入だ。

アジアカップでウズベキスタン代表を率いているエクトル・クーペル監督アジアカップでウズベキスタン代表を率いているエクトル・クーペル監督 クーペルは戦術家として語られることもあるが、練習内容に目新しさはあまりない。フィジカルトレーニング系が中心。とにかく体力面の質を向上させ、気持ちを最大限に高めて戦わせるタイプの指揮官だ。

<戦闘力を堅守とカウンターに結集する>

 そのやり方がはまったチームがあった。

 1999-00と2000-01シーズン、2年連続でチャンピオンズリーグ決勝に進出したバレンシアである。

 クーペルに率いられたバレンシアは、分厚い守備で守り切り、走力に優れたアタッカーが勝負を決めた。しつこい守備でボールを奪い返すと、とにかく手数をかけない。「気がついた時には相手が死んでいる」と形容されるカウンター攻撃を繰り出した。当時のアルゼンチン代表FWクラウディオ・ロペスが、圧倒的スピードから決めたゴールの数々は伝説的だ。

 アルゼンチン生まれのクーペルは現役時代、センターバックとしてストロングヘッダーで鳴らし、「身体を鍛えて行き着いた境地が監督の原点にある」とも言われる。お洒落なボールプレーは好まない。とことん効率性を重んじ、フィジカルタフネスを求める。

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