杉山氏、酔いしれる。全てのエンタメを超えた「考えうる最高の敗戦」 (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

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 ベルギー戦は試合前から、日本は過去2回にはない好ムードに包まれていた。けっして攻撃的ではない(5バックになりやすい)3-4-3で戦うベルギーとの相性もよさそうだった。日本自慢のパスワークが、高い位置で引っかけられる危険性が低いことは、あらかじめ予想されていた。

 スタメンは1、2戦目と同じ。つまり、4試合連続でスタメンを飾った選手は5人(川島永嗣、吉田麻也、酒井宏樹、長友佑都、柴崎岳)。大迫勇也、乾貴士、長谷部誠は3戦目に途中出場したが、フィールドプレーヤーは10人中6人が、ある程度休むことができていた。その余裕が、この試合を名勝負に導いた要因だ。

 日本選手は俊敏でテクニカルなだけではなかった。動きがキレていた。開始10分で接戦を予感させるほどだった。ロスタイムの最後のワンプレーが、雌雄を決するプレーになろうとは、もちろんそのとき想像することはできなかった。

 名勝負だった。考えられる範囲において最高の敗戦だ。悲劇には違いないが、満足度は高い。サッカーはエンターテインメント。格闘性も高いが、それをはるかに上回る芸術性がある。結果至上主義が、勝利至上主義が最も似つかわしくない競技の最右翼と言っていい。その本質が表出した試合。サッカーの魅力が全開になった試合と言ってもいい。W杯という舞台で日本代表は、それに当事者として関わった。

 ロスタイムにナセル・シャドリの決勝ゴールが決まり、ほどなくして頭をよぎったのは、25年前に日本が、ドーハのカタールで浴びたオムラム・サムラン(イラク)のヘディングシュートだ。ドーハの悲劇。そのとき生観戦していた僕は、正直言って、少しも悲しくなかった。その現場に居合わせた歓びのほうが断然、勝っていた。いいものを目撃することになった感激に酔いしれていた。

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