代表復帰の豊田陽平。「平常心でプレイする」の真意 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Getty Images Sport

 己の技量を高め、勇敢に戦う。それが所属するサガン鳥栖を強くし、自らの活路を開くことにもなると彼は信じる。質実剛健。その歩みは実に力強い。

 数年前、J2で苦しんでいた時代の豊田は、どうにもできない懊悩(おうのう)を抱えていた。現実と理想のギャップに苦しみ、ゴールゲッターとしてのエゴイズムを持て余しているようなところがあった。

「もっと落ち着けばいいところで、やたらと焦っていたんですよ。不安や思い込みは判断を狂わせるだけ。経験を積み重ねることで、状況に合わせての対処ができるようになりました」

 そう語る豊田は、弛(たゆ)まずその鍛錬を続けてきた。決定機を外したら、なにが理由か、とことん考える。それで劇的にゴールできるようになるわけではないが、一つ一つの経験を大事にすることで、高い状況適応力を身につけるようになった。

 それは今シーズン、彼が記録したゴールに集約されている。

 例えば第24節のベガルタ仙台戦(9月20日)。一度はGKとの1対1の好機を外すも、その直後にポジションを取り直してパスを受けると、目の前のDFをかわして右足で打ち込んだ。

「1本目で仕留められないのが、しばらく点を取っていなかったFWらしいですね。決めてないから思い切り蹴って当ててしまって。2本目で何とか入れられました」。本人は苦笑していたが、精神的挽回は迅速だった。

 また、第31節のヴィッセル神戸戦(11月2日)でも、リーグ優勝の望みをつなげるゴールを叩き込んでいる。終了間際、相手のマークを外すために動き直そうとする瞬間、左サイドからクロスが放たれる。体勢は悪かった豊田だが、頭上に来たボールを瞬時にバックヘッドでとらえ、ファーサイドに流し込んだ。ほとんど無心に近い動きで、体が即座に反応していた。卓抜した上半身の筋力も含め、誰にでもできる芸当ではない。

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