【日本代表】豊田陽平が語るJリーグとW杯への思い (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

「指示が理不尽。これではチームも良くならない」と面と向かって吐き捨てたこともある。京都時代は、沈黙を守ったことでストライカーとして孤立していった。その後悔が彼の言動を感情的にさせた。

「最初はなにかというと『走れ』でしたから。試合前でもガチガチに練習するから試合ではへろへろでした。得点を狙う体力は残っていないし、やり過ぎに思えたんです。1年目の夏頃まではマジでぶつかっていました。ユンさんも『あいつは必要ない』と漏らしていたらしいですね。たぶん当時のチームメイトは、自分が次のシーズン残るとは思っていなかったはずですよ」

 一呼吸入れてから、豊田は滔々(とうとう)と続けた。

「でも、ユンさんの発言は多少理不尽でも一貫していて、やっている内に結果が出てきたんです。不思議なもんで、そうなると自然に言葉が入ってくるんですよ。『練習でできないことは試合でもできない』『現状を維持しようとすれば衰えるのみ』『仲間が相手に倒されたら、親兄弟がやられたと思え!』とか、今ではユンさんがミーティングで話す言葉が自分の考え方の根本。話に説得力があるし、心から信頼していますね」

 ユンイズムを体現するようになったストライカーは、3年目の2012年シーズンに覚醒している。

「2、3秒にも満たない、ほんの一瞬なんです。でも、確実にプレイに余裕が出てきました。(これだけ点を取っていれば)相手が自分を潰してくるのは当たり前。準備さえ良ければ、落ち着いて自分のプレイはできる。浦和レッズ戦では若いCBがマークに付いてきたんですが、体に密着するタイプだったので、予備動作で体をぶつけ、離れるとマークは簡単に外れました。味方が持ち運んだ瞬間、“クロスが来るな”というのも予測できましたね」

 シーズン終盤は疲れの蓄積で腰が重く、実は本調子には程遠かった。にもかかわらず、残り11試合で11得点、4試合連続得点を記録。修羅場をくぐってきたことで、相手の裏を読み取る勘が研ぎ澄まされていった。

「自分はファーポストに流れてのシュートを得意とするイメージがあると思うけど、ニアポストの内側でコースを変えるだけのシュートも増やしていきたい。ファーに消えてから、前を開けておいて飛び込む感じで。シュートの形をたくさん作れば、相手は迷い、的を絞りきれなくなります。当然だけど、サッカーは相手があるものだから、その駆け引きで勝てるかどうか」

 最終節は、F・マリノスの新旧日本代表CB、中澤佑二、栗原勇蔵の二人に手を焼いた。とりわけ、中澤との駆け引きでは自分の間合いでプレイさせてもらえなかったという。そうした悔しい経験も、彼を進化させる良い薬になっている。

「今シーズンはいい状態でプレイできたんで、オフに入るのが怖い。練習していなくて大丈夫かなって。初めての心境ですね」

 全身の血が熱くなるような1年をすごした。肌がひりひりとするようなやりとり。それは生きているという実感だった。
(続く)

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