【日本代表】豊田陽平が語るJリーグとW杯への思い (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 豊田はいわゆる「善人」ではない。他人の意向に迎合せず、群れることも好まず、それ故、「偏屈で取っつきにくいよ」と記者たちから怖がられることもある。ただ悪気はなく、自分のペースを守りたいだけなのだ。探求心や好奇心は旺盛、メールで絵文字を使うとぼけたところもある。礼儀正しく、配慮は忘れず、どちらかと言えば善良な人間だろう。

 ただ、ピッチに入ったときの豊田は「悪人」と断言していい。

「なんなん、これ? ありえん! 」

 加賀弁でぶつぶつと相手選手を挑発しながら、自らの戦闘態勢を高める。年下のチームメイトから「トヨさん、止めないとやばかったですよ」としばしばたしなめられる。周りが割って入らないと、一触即発の雰囲気が作り出されている。 本人は試合中のプレイは詳細まで覚えていても、会話の内容や感情の流れは断片的にしか覚えていないという。

「ごめん。そんなことしてた? 恥ずかしいな」

 試合後に豊田は同僚に謝罪するのだが、勝利のための行動はえげつない。2012年シーズン、横浜F・マリノス戦でリードした状況。時間稼ぎのため、ボールを取ろうと見せながらわざとトンネルし、激昂した中村俊輔に膝で腹部を強打されたことがあった。中村の報復行為は重く罰せられて然るべきだが、豊田もしたたかで悪どい。ちなみにこの行為は意識的だったという。

 勝負事になると、彼はスイッチを入れられたように好戦的になる。例えば練習後にミニゲームをしてジュースをかける遊び。その日、彼のチームは負け、ジュース代を払わされる羽目になった。豊田はチームミーティングで挙手をし、おもむろに抗議を始めた。

「今日は負けたから払うのはいいですけど、この前は勝ったときにもらっていないんですけど?」

 怒気すら含んだ口調に、周りは「どうした、トヨさん?」とざわめく。ジュース代が惜しいのではない。負けたこともだが、勝負が正当に決着がついていないのも彼は許せないのだ。

「なるべくは抑えているんですが、負けず嫌いというか、どうしてもイライラしちゃうんですよ。その意味では、ガイジン選手みたいですね」

 豊田は大きな体を剽軽(ひょうきん)に揺らしながら言う。

 プロに入団した頃、185cmの長身体躯はポスト役をやらされると潰されることが多かった。試合を積み重ねることで、FWとしての技術を習得し、修練してきた。

「自分はFWとしては何も知らずにプロに入ったようなものです。山形で伸二さん(小林)にポストの入り方、ターンからのゴール、マークの外し方など細かいことを丁寧に教わった。それで北京五輪に出て、得点もできた。でも、京都(パープルサンガ)に移籍するとブラジル人FW一人のチームで、彼に合わせることばかり気にして、FWとしての自分も見失ってしまった」

 戦うことに不信感が芽生えたままサガン鳥栖に移籍してきたとき、当初はユン・ジョンファン監督(1年目のときはヘッドコーチ)の指導に反発心を抱いていた。

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