【なでしこ】川澄奈穂美の思い――澤さんにもあやにもなれないから (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko photo by Enrico Calderoni/AFLO SPORT

 そんな川澄は現在26歳。もう“若手”ではない。かといって“ベテラン”というわけでもない。それでもここからは、なでしこでも、チームでも、自らが周囲を引き上げていかなくてはならない立場にある。

「自分は言葉で何かを伝えるとか、(宮間)あやみたいに気遣いができるわけでもないし、シノさんみたいにムードメーカーになれるわけでもない。でも、自分としては、結構若い子の中にいることが多いから、若い選手とは話しやすいとは思うんですよ。いつもそういう関係でいられるようにしたいし、若い選手たちのことを気にするようにはしてます」

 ロンドン五輪でも、上の世代と下の世代の微妙な気持ちの「温度差」というものが、チームの雰囲気を大きく左右した。けれど、若い選手たちにチームを思う気持ちがないのではない。ベテラン選手に負けないぐらい、気持ちはあるのだ。ただ、それをどう表現していいのかがわからない。そこは川澄自身も敏感に感じ取っていた。

「(田中)明日菜とかはチームでもルームメイトだし、近い存在。だから自然に明日菜の周りにいる若い選手たちと話す機会が増える。『もっとグイグイやってくればいいのに』ってこちらは思ってしまいがちですけど、若い選手たちには若い選手たちなりの考えや思いというものもある。やってる、やってないじゃなくて、ね。私も『ああ、こんなこと考えてたんだ』って、聞いて初めてわかることもあったし。だから、私はパイプ役というか、機会を見てその考えをチーム全体に伝えたり、ちゃんと間にいるっていうか、そんな存在でいられればいいのかなって思います」

 この川澄の存在の有難さを実感しているのが、田中明日菜だ。

「ナホはいつも一緒にいるからこそ、違うことは違うって厳しいことも言ってくれる。もう何も気を使わないでいい存在が、代表でもそばにいてくれるというのは本当に心強い。大きいですね」

 チームには、強いリーダーシップというものも必要だ。けれど、時には、あえて若い選手たちの立ち位置に立つことで見えてくるものもある。その役割を担う人間も必要なのだ。言葉で諭すのではなく、そばに寄りそうことで、壁を取り除く――そうして、周りの人たちからの言葉を受け入れやすい土壌作りをする。それが、なでしこジャパンでの川澄の“役割”だった。

 ピッチ内外で自分の立ち位置をつかんだ川澄が、これからどのような成長を見せるのか。いい意味でこちらの予想を大きく裏切ってくれることを期待したい。

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