2011.07.11

【なでしこジャパン】歴史をつくった120分間。ドイツ戦で示したなでしこサッカーの真髄

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 なでしこサッカーが歴史を塗り替えた。ホスト国・ドイツとの準々決勝、約26000人が入ったヴォルフスブルクのスタジアムは満員御礼の大アウェー。この状況下でなでしこジャパンは快挙を成し遂げた。

丸山の決勝ゴールでW杯初のベスト4進出。開催国の王者ドイツに勝利した歴史的な一戦となった スタジアムに足を運んだドイツサポーターのうち、延長戦にまでもつれ込む展開を何人が予想しただろうか。しかも、スコアレスで母国が敗戦することなど誰も想定していなかったはずだ。

 ましてや相手はまだ国際大会での実績も浅い日本だ。だからこそ、決勝ゴールが日本に生まれた瞬間、スタジアムは気味が悪いほどの静寂に包まれた。

 それは丸山桂里奈のガッツポーズとともに「入った!」という日本語の歓喜の声がピッチレベルで確認できたほどだった。歴史的ゴールはドイツ人の記憶にもハッキリと刻まれたに違いない。

 試合は、予想通りとはいえ、立ち上がりから日本がドイツの猛攻を受ける形になった。

「前線からのプレスを」安藤梢はそう心に決めていた。1999年のワールドカップに高校生で出場してからこれが3大会目。活動の拠点をドイツに移してから初めて迎えるワールドカップは特別なものだった。

 イングランド戦で敗戦した最たる理由は前線からのプレスを怠ったことから生じた連動性の欠如。同じ轍は踏まない。第2戦まではできていた攻撃スタイルに前線からのプレスを合わせれば絶対に上手くいくはずだと信じていた。

 ドイツの攻撃のスピードに慣れるのに20分ほど要しはしたが、その後、日本はドイツを術中にハメていく。もちろん余裕などどこにもない。すべてのプレイが100%。パスコース限定、ボール落下地点の予測、体の寄せ……。すべての要素にフルパワーでぶつかっていく。ドイツも前線にボールを集め、隙あらば即シュートに持ち込む。

 両サイドからのクロスを恐れる日本としては中央にボール集めたいが、ドイツの突破は人数をかけずして止めることはできない。ひとりで1.5人分の役割を果たすため、運動量を上げてカバーリングする日本選手。

 ドイツに焦りが見え始めたのは後半も中盤に差し掛かったころだ。いつもの日本ならそろそろ崩れてくるはずで、そのスキをつけばゴールはそう遠くないはずだった。しかし、この日の日本は崩れるどころか守備のリズムを掴んでいた。

 それにはやはり、前線からプレスをかけ、攻撃に切り替わると同時に厳しい距離でもなんとかボールを運び、前を向き続けた安藤梢の存在は大きい。

「MVPは安藤にやりたいくらい」と佐々木則夫監督も、そのプレイに称賛の声を上げた。この日、バースデーを迎えた安藤にとっても忘れられない最高のゲームとなったことだろう。

 死闘が決したのは延長後半3分、澤穂希からの絶妙なパスを受けた丸山が値千金のゴールを奪取。その後の猛攻を全員で凌ぎ切り、初めてドイツを下し、ベスト4へ駒を進めた。

「さすがに疲労で最後はフラフラだったんですけど、ベンチからみんな声をかけてくれて、チームがひとつになって戦えた。また気を引き締めて日本らしいサッカーをして決勝に行けるようにしたいです」とは試合後の安藤。

 本来、FWである安藤までがプレスに力を注いだのは、決して”守備”に徹した訳ではない。それが、チームの攻撃につながると信じていたからだ。”なでしこサッカー”は「守備からの攻撃」というチームコンセプトがある。

 プレスをかけることで相手のポジションをズラし、ボールを奪って相手の守備を崩すという、攻撃への第一歩なのである。このシステムは長期に渡って、世界と戦いながらようやくたどり着いたスタイルだ。

 もちろん、選手たちにかかる負担は大きい。”個”で劣ってしまう分を運動量で補うことは、連戦となる世界大会で有利とはいえないかもしれない。ただ、ずっとこのシステムでベースを作り実績を積み重ねてきた。

 攻撃陣にかかるストレスは相当なものであることは容易に想像がつく。しかし、そのベースの上に攻撃力を積み重ねるしかない。わずかな時間だろうと、わずかな可能性だろうとその一瞬を力にすれば、この試合のように1点に結びつき、それがチームに勝利を呼び込むことにつながっていく。

 安藤のプレイはその真髄を指し示していたのではないだろうか。その道筋をワールドカップという舞台で形作ることができれば、彼女たちの目標である世界大会でのメダルも夢ではないだろう。その可能性は、彼女たちにはもう見えているのかもしれない。

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