【なでしこリーグ】「INAC魂」を託して。創成期からクラブを支えた米津美和の引退と涙 (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko
  • photo by Hayakusa Noriko

 米津の想いは通じた。

 全日本女子選手権決勝後半。神戸が追加点を挙げた直後から、スタンドには米津コールが沸き上がった。その声に後押しされるようにピッチに送り出された米津に川澄がかけ寄って軽くタッチを交わす。

 米津の最初のプレイは、ラインを割ろうとしているボールへのスライディングだった。みんなが米津にボールを集める。幾度も幾度もゴールを目指すいつもの米津の姿があった。

 試合終了のホイッスルが鳴り響いた瞬間、彼女はほんの一瞬だけ空を仰いだ。そして、仲間から抱擁を受けると、もう涙を抑えることができなかった。表彰台では川澄に促され、トロフィーを受け取り、それを高々と掲げた。

「最初はスタンドに誰もいなかった。それがある日、ひとり声を出してくれるサポーターが現れて......。あの感動は忘れられません。そこから今はこんなに大勢の人が応援してくれる。最高の舞台で最後まで力いっぱい楽しくプレイできて、私は本当に幸せだと思います」

 ここからINAC神戸はさらなる上昇気流を生み出していくに違いない。その飛躍の源に、クラブ創成期から発展を支え、礎(いしずえ)を築いてきた選手たちがいる。

 彼女たちが残したものを、ここから新たに踏み出す選手たちが引き継いでいってくれることを願ってやまない。

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