命の危険を感じていた田中正義の剛球 紐が切れかけたミットを見て感じた「本当にやばい投手」の条件 (3ページ目)
立ち投げの初球は、はるか頭上を越えた。「流しのブルペンキャッチャー」の現場でよくある現象だ。相手もけっこう緊張するらしい。だが2球目からは、とんでもないボールが来た。指先に完璧にかかった剛球が「ドカン!」とミットを弾く。この時、田中は188センチ90キロ。高校時代より一段と大きくなった雄大な体躯のパワーが、余すことなくボールに伝わっていた。まるで重量そのものが向かってくるような感覚だった。
「おおー、ナイスボール!」
大声を張り上げても、なんにも反応しない。嫌なのかな......。こういうのが一番やりにくい。
「ちょっと気難しいかもしれませんよ」
佐藤コーチからは、そんな情報ももらっていた。けっこうバラついた立ち投げを10球ほどで終え、さて......と腰を下ろして、アッと驚いた。いつの間にか、ソフトバンクのスカウトが4人も田中の後方に並んでいたからだ。
「今日は、いいものが見られるなぁ」
小川一夫編成・育成部長(当時)の声が聞こえる。顔見知りばかり。こんなに恥ずかしい取材は初めてだった。しかも、スカウトたちが真後ろに並ぶと、よけいにボールが見づらくなる。
「宮田さん、すみません、ちょっとだけ横にずれてもらえますか」
もっとなんか言ってやろうかとも思ったが、一番顔見知りの宮田善久スカウトに、そんなことを言うぐらいが、せいぜいだった。
【ミットの紐が切れかかるほどの破壊力】
さあ、本番はここからだ。腰を下ろし、いつもよりも体を丸めて小さく構える。そうすることで、不思議とどれだけ速いボールでも「見える」ようになる気がするのだ。
「本気でいいからね」
田中にひと声かける。こちらにだって、見られている意地もあれば見栄もある。「はい」と、小さな返事が聞こえた次の瞬間だった。とんでもないボールが、こちらの左肩付近へ飛び込んでくる。もちろんミットは間に合わない。
重い──。いや、それ以前に、ボールそのものが大きく見える。そんな錯覚を覚えるほどの迫力だった。トレーニング用の鉛のボールみたいなのが、150キロ近いスピードで、瞬時にミットにドカンと来る。
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