【ドラフト秘話】メジャー挑戦の大谷翔平を強行指名→日本ハム入団も栗山英樹は「全然喜べない」 (2ページ目)

  • 元永知宏●文 text by Motonaga Tomohiro

 入団の記者会見ができたのは、指名から1カ月半近く経った12月9日。その時、私は「もっと喜べると思ったけど、全然喜べない」と言いましたが、それは本音ですね。あれだけの選手を預かるんですから、当然のこと。

 もし翔平に故障をさせたら大変なことになる。壊してしまったら責任なんて取れないですから。5年後にメジャーリーグに送り出す時、どれだけほっとしたことか。翔平が抜ければチームの戦力がダウンすることは間違いないけれど、「やっと、あの地獄から解放される」と思いました。それほどのプレッシャーがありました。

 世の中が非常に苦しいなかで、人々に元気を与える存在を、神様がこの世に送り出そうとしていたんじゃないかと思います。100年前のベーブ・ルース(元ニューヨーク・ヤンキース)のように。

 大谷翔平という選手を世に送り出すためにいろいろな駒が必要だったわけですが、私もそのひとつだったんだと。彼を強行指名したあとに、ファイターズへの入団をサポートする役割を私がすることになったのです。

 翔平に初めて会ったのは、彼が高校2年生の時。2011年3月11日に起こった東日本大震災の1カ月ほどあとだったと記憶しています。取材者として、被災したキャッチャーの家族について、翔平にインタビューをするためでした。

 人の生死に関わることだし、質問するこちらも慎重になったのですが、翔平は取材の意図を汲み取ってくれて、的確に答えてくれました。その前に花巻東の先輩である菊池雄星投手(現ヒューストン・アストロズ)から、「僕よりすごい選手です」とも聞いていました。野球の能力とは別のところで、翔平には"考える力"があるなと感じました。そのことがとても印象に残っていました。

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