「今年ダメだったらクビだと思う」ソフトバンク仲田慶介が語る「育成と支配下のリアル格差」
福岡ソフトバンクホークスの春季キャンプは、宮崎市・生目の杜運動公園で実施される。週末になるとファンが大挙して押し寄せるため、球場から遠く離れた臨時駐車場までぎっしりと車列が伸びていく。
当然のように、A組が練習するアイビースタジアムの内野スタンドはファンで埋まり、公式戦かと思うほどの盛況ぶりだ。
プロ3年目にして初めて春季キャンプをA組で過ごしたソフトバンク・仲田慶介 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【育成は「本当のプロ野球選手ではない」】
シートノック中、スタンドから「おぉ〜」と大きなどよめきが起きた。ファンが驚いたのは、ゴールデングラブ賞経験者の今宮健太でも柳田悠岐でもない。背番号155を着けた仲田慶介のスローイングである。
柳田のひとり前、ライトの1番手としてノックを受けた仲田が助走をつけてバックサードする。ボールは低い軌道で伸びていき、三塁ベースへと正確に届く。主力級が調整するA組にあって、ノックで一番目立っていたのは育成選手の仲田だった。
そんな感想を本人に伝えると、仲田は「そうですか?」と照れくさそうに笑った。てっきり謙遜かと思ったが、そうではなかった。
「ノックでは思いきり投げるというより、精度を重視しています。低い軌道で、ワンバウンドでも捕りやすく、タッチしやすいボールを意識しています」
全力で腕を振れば、もっと力強いボールを投げられる----。言外にそんな本音が滲んでいるように感じられた。
現時点でソフトバンクには57名もの育成選手が在籍している。そのなかで、仲田は川村友斗、緒方理貢とともに「支配下登録に限りなく近い野手」とみられている。
大ベテランの和田毅が昨年末の契約更改の際、危機感の薄い育成選手に苦言を呈する一幕があった。その際に、和田が例外として名前を挙げたのが仲田だった。和田のコメントを引用してみよう。
「上(支配下)に上がる覚悟が甘いかなと感じることがある。そういう意味で、本当にはい上がりたい、一軍でプレーしたいと思うのは、仲田(慶介)選手くらいじゃないか。僕が見落としているかもしれないけど」(2023年12月25日/西スポWEB OTTO!より)
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。