「正しい投球フォーム」は本当に存在するのか? 吉見一起が「自分の感覚」の重要性に気づかされた中日時代の苦い教訓 (2ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「そういうことがあるので、だいたいの選手はコーチの言うことを聞いてしまうんですよ。でも、やっぱり自分の感覚を大事にするべきだと思います。モノはいいのに、一軍で活躍できない選手もいますよね。その理由としては、言われたことを理解する能力も影響していると思います。理解力がある人ならコーチに感覚的なことを言われても自分でうまく消化できるけど、みんながそうとは限らない。コーチに言われたことを理解できず、さらに自分で消化できずにおかしくなるパターンをよく見てきました」

正しいフォームは存在するのか

 プロ野球では現役引退した元選手が学ばないままコーチになり、経験だけで指導するという"コーチング"不在の問題がたびたび指摘される。サッカー界のように指導者ライセンスを導入すべきという声は、草の根でも議論の俎上にのるものだ。

 同時に、吉見が指摘する問題には野球界の"永遠の命題"も含まれている。はたして「正しいフォーム」は存在するのか、というテーマだ。

 10年ほど前から、学童から高校野球、果てはプロ野球を含め、投手の"投げすぎ"問題が広く議論されている。その際に往年の名投手などから言われるのが、「正しいフォームで投げれば、たくさん投げても問題ない」という意見だ。

 だが、そもそも「正しいフォーム」は存在するのか。オリックスの山岡泰輔やソフトバンクの松本裕樹らと個人契約し、広島で「Mac's Trainer Room」を運営する高島誠トレーナーが見解を示す。

「ベターはあるけど、『絶対これは大丈夫』と言うのは難しいですよね。そもそも、ずっと同じ投げ方で投げ続けられるはずがないので。それができるなら、ダルビッシュ有投手(サンディエゴ・パドレス)はすでに400勝くらいしていると思います。あのクラスの選手でもバランスがちょっと崩れることもあるし、当然ケガをすることもあるので」

 まず念頭に入れるべきは、「正しいフォーム」を身につけるのは極めて難度が高いということだ。高島トレーナーが続ける。

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