八重樫幸雄が振り返るヤクルトの日本一。サヨナラ負けした初戦を見て「オリックス4勝3敗」の予想を覆した (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【奥川の奮闘がチーム全体に勇気を与えた】

――結果的に全6戦を行なって、ヤクルトの4勝2敗という結果に終わりました。八重樫さんが選ぶ、両チームのMVPは誰でしょうか?

八重樫 繰り返しになっちゃうけど、ヤクルトのMVPは奥川くんだと思います。結果的に初戦にしか登板していないし、この試合自体は負けてしまったけれど、初戦で彼が見せたピッチングはチーム全体に勇気を与えたと思うんですよ。

――「プロ2年目の奥川でも抑えられるんだ」という勇気ですか?

八重樫 それもあるかもしれないけど、まだ20歳の若者が日本シリーズという大舞台で、山本由伸という日本を代表する大エースと堂々と投げ合っている。その姿を見れば誰だって、「オレたちも頑張らねば」という思いになるでしょう。彼の好投があったからこそ、第2戦の高橋奎二以降、小川泰弘、石川雅規、原樹理、高梨裕稔とすべての先発投手たちがきちんと試合を作れたんだと思いますね。

――なるほど。オリックスサイドで印象に残った選手は誰ですか?

八重樫 オリックスサイドでは「この選手だ!」と強く言い切れるような選手はいなかったです。吉田正尚にしても、杉本裕太郎にしても、ある程度の活躍はしたけど、シリーズ全体を通じて見ると穴もありましたから。強いて言えば、山本由伸が初戦と第6戦で気持ちの入ったいいピッチングをしましたね。でも、オリンピックのときのほうが圧倒的な存在感がありました。

――八重樫さんとしては日本シリーズよりも、オリンピックのときのほうが調子がよかったと感じられましたか?

八重樫 間違いなくそうですね。オリンピックでは低めへのボールが徹底されていた印象があります。もしもオリンピックのときの状態だったら、日本シリーズでも2勝はしたんじゃないですかね。ただ、いずれにしても今年の日本シリーズは、ヤクルトもオリックスも本当によく頑張ったと思いますよ。今年のヤクルトを見ていて、僕はあらためて「広岡ヤクルトと似ているな」と思いました。

――どういう点が「広岡ヤクルト」時代と似ているんですか?

八重樫 78年はマニエル、ヒルトンという外国人がいて、今年はオスナ、サンタナという2人の助っ人がチームに溶け込んで頑張っていましたよね。特別なスターもいなく、みんなでひとつの勝ちを奪いにいく姿勢も似ていた気がします。

 それに、かつては「管理野球」と呼ばれた広岡さんに対する反発でチームはひとつになったけど、今年は高津監督の心遣いによってチームがまとまった。理由は違うけど、チームの団結力に関しては78年と似ていたような気がします。本当にいい日本シリーズでした。両チームの選手たちには感謝の気持ちでいっぱいです。

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