ウイスキー瓶を投げられたポパイ長田は、外野席まで犯人を追いかけた (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki

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 取材を思い立ってさらに調べると、現役引退後の長田さんは解説者を経て、神奈川・横浜市内で飲食店を経営していることがわかった。その名も『日本料理 味処 ポパイ』(現在は閉店)。早速、お店に電話すると長田さん自ら応対してくれて、店内での面会を快諾してもらった。

 東急田園都市線たまプラーザ駅からケヤキ並木の緩やかな坂を下った先に小綺麗なマンションがあり、お店はその1階に入っている。時間は午後4時過ぎ、ランチタイムが終わって〈準備中〉だから、扉を開けても店員の姿は見えず、左奥の座敷席と右側のテーブル席の照明は落とされていた。

 それでも中央のカウンター奥の蛍光灯はついていて、僕が挨拶の声を張り上げると返答があった。物音ひとつしない空間にスイッチ音が響き、照明がひとつずつ明るくなり、Tシャツ姿の長田さんが現れた。想像以上に長身で体が引き締まっていて、71歳(当時)の方には見えない。短く刈られた頭髪は年相応ながら、スポーティーな純白のスニーカーにも若さが感じられる。

 愛想笑いをするでもなく、長田さんは淡々とこちらを4人掛けのテーブル席にうながして厨房へ向かい、白衣を手にして戻った。目の前で無言で羽織り始めた白衣の左胸部分には店名が刺繍されており、たちまち日本料理店の店主らしい風情が漂う。夜の開店時間まで間もないだけに、僕はコラムが載ったスポーツ紙を提示しつつ、取材主旨を切り出した。

「ああ、有本さん。そん時、店に来たですよ。こういう仕事じゃなくて、飲みに。あっはっは。もうずいぶん古いからね、付き合いが」

 甲高い笑い声が響いた。コラムを執筆した有本氏とは現役時代からの付き合いだという。あらためて見る長田さんの風貌は小さな目が奥まっていて、あごが大きく、実際にポパイに似ていなくもない。しゃがれた濁声(だみごえ)もアニメの声を彷彿とさせる。まずは、中学時代にスピードスケートの選手だったことから尋ねる。

「スケートはね、実家が山中湖で、湖畔からすぐ近くだったからね。昔はほら、僕ら子供の頃の冬って、全面結氷するんですよ。だから学校なんかもスケートで行くし。下駄のスケートだけどね。えっへっへ」

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