西武ドラ1・渡部健人のこだわり。
フルスイングしない無心の境地

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Nakajima Daisuke

 桐蔭横浜大学野球部の齊藤博久監督は、2020年ドラフト1位で西武に指名された渡部健人がプロに旅立つ際に伝えようと思っていることがある。

「ドラフト1位はよかったけど、おまえのことを評価せず、調査書を持ってこなかった球団が3つあるんだぞ。それを忘れるんじゃない。見返してやれ!」

 早稲田大学の早川隆久(楽天)と近畿大学の佐藤輝明(阪神)が注目を集めた昨年秋のドラフトで、最も驚かれた1位指名が渡部だった。通常、ドラ1で指名されるような選手には、全球団から調査書が届くものだ。それが渡部の場合、3球団はリストアップさえしていなかった。

昨年秋のドラフトで西武から1位指名を受けた渡部健人昨年秋のドラフトで西武から1位指名を受けた渡部健人 ドラフト2位以下でも獲得できたのではないか----。西武が渡部を外れ1位で指名した際、こうした声が少なからず聞こえた。

 一方、齋藤監督があとから"答え合わせ"をすると、2位指名で検討していた球団が複数あった。そのひとつは、外れ外れ1位で指名を考えていたという。西武はこうした動きを察知し、他球団より先に入札したのかもしれない。

 176センチ、112キロ。横浜スタジアムのレフト上段に突き刺すほど"規格外"のパワーを誇る渡部は、球団によって大きく評価が分かれている。その一因として考えられるのは、本格ブレイクしたのがドラフト直前と遅いことだ。

 4年間の軌跡を見てきた齋藤監督は、渡部の今後について率直に語る。

「大学では打ってない期間のほうが長いから、不安はものすごくある。ただ、あいつの持っている能力はすごい。1ランク、2ランクも上のプロの世界でバッティングを教わったら、どんな選手になるんだろうというワクワク感もある」

 無限の可能性を秘めたホームランアーティスト----。

 そんな自身の才能を渡部が初めて実感したのは、小学4年生の頃だった。小1で野球を始めて以来、初めて本塁打を放ったのだ。

「自分の打球は周りの人より飛んでいるんじゃないかと思いました。当たったら勝手に飛んでくれるので、自分のスイングをすれば飛ぶんだなと」

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