伊藤智仁「喜びも希望もなかった」。圧巻デビュー戦でのまさかの真実 (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

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 スーツ姿のまま神宮に行くのは、この日が初めてだった気がする。採用通知がほしくて、企業にこびへつらっている自分に嫌気が差し、ネクタイを緩めながらライトスタンドの片隅で見つめていたのが伊藤の雄姿だった。

 かたや、1億2000万円の契約金の提示を受けてプロに請われた伊藤。かたや、時給1000円のアルバイトをしながら、懸命に就職活動を続けている自分。一方は華やかなスポットライトを浴びながら大観衆の視線を独り占めし、もう一方は大観衆のひとりとして、マウンド上のゴールデンルーキーを見つめている。彼我の状況はあまりにも対照的だった。

【圧倒的だった伊藤のピッチング】

 しかし、不思議なことにマウンド上の伊藤に対して、妬みや嫉みを感じることも、卑屈になることもなかった。振り返れば、あまりにも彼はまぶしすぎたのだ。その実力はケタ違いだった。そのピッチングは美しかった。単純に、そして純粋に、僕は彼に魅了されていたのだ。

 試合が始まる――。初回にランナーを背負ったものの、伊藤は三番の(トーマス・)オマリー、四番の(ジム・)パチョレックを連続三振で切り抜けた。ルーキーらしからぬ力強い投球、そして長い手足を存分に使ったしなやかな投球フォーム。後に伊藤本人は、この場面を次のように振り返っている。

「試合開始直後は足が震えていました。初球なんか、軸足が震えていて、『まともに立てないんじゃないか?』と思いましたから(笑)。それでも、オマリー、パチョレックは三振、三振で初回をゼロに抑えられた。それで落ち着きましたね」

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