2019.11.26

消滅する近鉄のホーム最終戦。
松坂と中村は抱き合い、選手は号泣した

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

【ホーム最終戦での歓喜と涙】

 15年前のこの試合を、どれだけの人が覚えているだろうか。

 2004年9月24日、大阪近鉄バファローズの本拠地である大阪ドームに4万8000人のファンが集まった。

ホーム最終戦を終えた近鉄の選手たち 西武ライオンズが2-1とリードして迎えた5回裏、松坂大輔が二番手としてマウンドに向かった。プロ野球界を代表するエースが登板したのは、最優秀防御率のタイトルを狙うため。1イニングを0点で抑えれば、ライバルである近鉄の岩隈久志の射程から逃れることができた。

 しかし、予定の1イニングを三者凡退で抑えた松坂は、6回裏もマウンドに上がった。バッターボックスでは、”いてまえ打線”の四番・中村紀洋がバットを高々と掲げていた。
 
 松坂がストレートを投げる。中村は空振り。球速表示は149キロ。

 2球目のストレートをまたも強振して空振り。150キロ。

 3球目。149キロのストレートを打ち返した打球は、力なくセカンドに転がった。

 試合前に「ブルペンで(調子が)悪ければ投げない」と話していた松坂が、なぜこの日の登板を決めたのか。タイトルを引き寄せるために上がったマウンドで、なぜ被弾のリスクを冒してまで中村に真っ向勝負を挑んだのか。

 それは、「近鉄の最後のホームゲーム」だったからに他ならない。まもなく消滅してしまうチームに対する敬意、最後のホームゲームを見るために大阪ドームに集まったファンへの思いがあったのだ。

 満員のファンの声援に包まれ、2-2の同点になった試合は延長11回まで続いた。その裏の近鉄の攻撃、1アウト二塁で星野おさむが放った打球がライト線を破った瞬間、一塁側ベンチから選手が飛び出した。男たちの歓喜の抱擁は、ゆっくりと別れの儀式へと変わっていく。笑顔はすぐに泣き顔になった。

 その年限りで引退することになる加藤伸一と赤堀元之、ケガから復帰したばかりの吉岡雄二、エースの岩隈、ベテランの水口栄二……球団の歴史に輝かしい足跡を残した主力選手、栄光を夢見て近鉄のユニフォームに袖を通した二軍選手たちも外野に向かった。

 サインボールを投げ込み、ファンに手を振る。選手たちの瞳からは、拭っても拭っても、涙がこぼれ落ちる。三塁側ベンチ前では、中村が松坂と抱き合った。

 岩隈はその瞬間をこう振り返る。

「試合後に球場を回った時、涙が止まらなくなりました。球団の歴史を考えたら、僕はそんなに長くプレーしたわけでもないのに、自分のチームがなくなると、こんな気持ちになるのかと……さびしくて、さびしくて」