【イップスの深層】森大輔が引退後に初めて味わった一軍マウンドの感慨 (2ページ目)

  • 菊池高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by ©Yokohama DeNA Baystars

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「もちろん恋愛関係ということではなく、競技は違ってもお互いの苦労を打ち明け合いながらすごく刺激をもらっていました」

 1歳年上のアスリートの話は、驚きに満ちていた。森は荒川の「準備」に対する考え方に圧倒される。

「荒川さんは本番前に自分の演技をすべてイメージするんだそうです。だから『本番前に滑り終わっている』と言うんです。イメージ上でいい滑りができているから、本番が始まっても大丈夫なんだと」

 その後、荒川は2006年のトリノオリンピックで金メダルを獲得する。一方その頃、森はプロ野球選手にはなったものの、イップスのため投げられない日々を過ごしていた。

「荒川さんは右肩上がりなのに、僕は逆に下がる一方で......。だんだん会話が合わなくなってくるんです。お互いにいる場所が変わっているというか」

 その後、荒川とは疎遠になったとはいえ、引き合わせてくれた高浦に森は今でも感謝の念を抱いている。

 そして高浦は現在、高校・大学の現場でアマチュア野球選手の指導をしている。主に捕手のコーチをしている高浦だが、そこで意外なことを打ち明けた。

「今は高校生や大学生でもキャッチャーに限らずイップスに悩んでいる選手が多いんですけど、私はそんな選手に声を掛けてアドバイスしているんです。投げ方をゼロからつくり直せば、意外と治るものなんですよ。でもね、うまい選手ほど治すのが難しい。それは『前にできていたのだから』という体感が残っているから。ゼロから投げ方をつくり直すということができないんです」

 そして高浦は、こうつぶやいた。

「森が選手のとき、私はスカウトでした。もしコーチとして現場にいてやれれば、森に付きっきりでサポートできたはずなのに......」

 アマチュアでイップスに苦しむ選手を何とかして減らす──。それは、高浦の罪滅ぼしのようにも思えた。

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