山田哲人、8年目の雪辱。もう「感覚だけのバッティング」はしない (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

―― "算数ティー"のときには、石井琢朗コーチに「何の練習ですか」と興味深そうに質問しながら、実に楽しそうにバットを振っていました。

「あの練習は面白いですよ。頭の中で別のことを考えながらも、無心で打たないといけないですし、考えることで間(ま)がつくれる効果もあると思いました」

 この"算数ティー"は、たとえばコーチが「3+6」とトスをしながら出題。選手は「9」と回答しながらスイングする。実にシンプルな練習だが、選手によっては「7+5」と出題されると「14......違う12や!」と珍回答が出るなど、頭と体を同時に動かすのは見ている以上に難しそうである。

 この練習メニューを考案した石井コーチに、その意図を聞いた。

「前頭葉を鍛えるというんですかね。野球というのは、多くの雑音が入ってくるなかで集中しなければいけないスポーツです。頭で違うことを考えながら、しっかりと自分の形でアジャストできるか。計算することで、打つときにインパクトが弱くなったり、自分のフォームで打てなくなったりしてはダメです。おそらく、神経が研ぎ澄まされて体が無意識に反応するときって、頭の中は真っ白な状態なんですよ。そこが狙いです。ほかにも、人によって効果はさまざまで、考えることで間が取れることもありますよね」

 石井コーチにここまでの山田の印象について聞いてみた。

「自分で課題を持って取り組んでいますよね。流れ作業のようにスイングするのではなく、課された回数をしっかり考えながら振っている。たいしたもんだと思います。今さら量を振らせる選手ではないのですが、このキャンプでは今までに経験したことのない量を振っています。まだ25歳ですからね。30歳を過ぎてからガクッと体力が落ちないように、そのための準備段階として絶対に必要なことだと思っています」

 そして石井コーチは「哲人には、技術的なことは何も言わないです」と言い、こう続けた。

「杉村(繁)さんとやってきたことを継続していけばいいと思います。哲人は多くを語るタイプではありませんが、信念を持ってやっている。そこを尊重して、彼の邪魔にならないように少し離れたところから見ている感じです」

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