さらば、ヤ戦病院。石井コーチの「悪魔の囁き」でヤクルト戦士を改造中 (2ページ目)

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by HISATO

 石井琢朗打撃コーチも、"破壊と創造"に似た考えを持っているようだ。たとえば、"マタワリ"と呼ばれ、両足を大きく広げて左右に体重移動しながらボールを打つティーバッティングのときである。設定された数字は160スイング。これを選手たちは20×8や30×5+10というようにそれぞれ消化していくのだが、廣岡大志があと20スイングで終了というときに石井コーチがやってきた。

「おっ、カニ(廣岡)はあと20球か。残りはオレと一緒にやろう(笑)」

 石井コーチが悪魔のように囁き、最後の20球が始まった。

「1、2、3......1313131313、頑張れ、カニ! 1313......」

 このように途中から同じ数字を何度も繰り返し、予定の20球が終わっても終わる気配がない。このキャンプで多くの選手が「刺激ほしくない?」と石井コーチに囁かれ、予定の数を超える回数のバットを振った。それでも選手たちは、限界に見えながらも歯を食いしばり、最後のひと振りを終えると笑顔を見せていた。石井コーチは言う。

「特に強化が必要な選手もいますし、気持ちの面でもう少し強くならないといけない選手もいます。結局、最後は気持ちなんですよ。だからこそ選手たちには『意識を高く、そして強く』なってほしいんです」

 股関節の硬い廣岡にとって"マタワリ"は苦行以外の何ものでもない。激痛に耐え切れず「もうアカン」と悲鳴を上げるも、フラフラになりながらバットを振り続ける。

「よし、これで20球」(実際は80球)と石井コーチの声でようやく終了となった。石井コーチは股を大きく広げて立ち尽くす廣岡を見て、「カニみたいな格好でしょ。だから"カニ"って呼んでいるんです」と笑うのだった。

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