2017.09.25

【イップスの深層】
給料0円でも、
一二三慎太が再び投手に挑むわけ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sportiva

「プロでもボール回しするときに『今日はヤバイな、指先おかしいな』という日は、投げる相手に『今日ヤバイんで』と言います。プロでもイップスのヤツは多かったですよ。(イップスを)持ってる人同士だと、すぐにわかり合えるんで(笑)。隠すなんてムリっす」

 ただ、一二三にはある自負があった。自分のイップスは心因性のものではない。肩の痛みというはっきりした原因がある。だから、肩の痛みさえなくなれば、イップスは治るのではないかと考えていた。しかし、その痛みは徐々にやわらいでいたものの、完治にはほど遠い状態が続いていた。

 2015年シーズン後には金本知憲監督が就任。秋季キャンプで潜在能力の高さを見込まれた一二三は、付きっきりで指導を受けた。だが、「始動が遅い」と何度も指摘を受けても、直すことができなかった。

「僕なりに早くしているつもりなんですけど、映像を見るとメッチャ遅いんですよ」

 一二三は自嘲気味にそう言って、吐き捨てるように続けた。

「やっぱり、バッティングは難しいですね。考えるタイプなんで、ドツボにはまっていくんですよ。ピッチャーと勝負じゃなくて、僕のフォームとの勝負になってしまう」

 2016年からは育成選手契約となり、背番号は「36」から苗字にちなんだ「123」に変更。BCリーグの石川ミリオンスターズに派遣され、実戦経験を積んだ。しかし、本来NPBより格下であるはずのBCリーグでも、34試合に出場して打率.186、1本塁打。結果が出なかったのは、肩の不調の影響でも、気持ちが切れたからでもない。

「ただただ、僕が打てなかった。限界というか、打てないです。ムリですね。育成になって、こっち(石川)に来て、今年でクビやろうなと」