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【イップスの深層】先輩の舌打ちから始まった、ガンちゃんの制御不能

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

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連載第1回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・岩本勉(1)

 イップス――これまで普通にやれていたことが突然できなくなってしまう。野球界においても例外ではなく、なかでも自分の投げ方を忘れてしまう"送球イップス"に苦しむ選手は多い。ある者はポジションを追われ、ある者は選手生命にピリオドを打たざるを得なくなった。まさに野球選手にとって"イップス"は地獄のような言葉である。その"地獄のイップス"を経験したことのあるプロ野球選手、関係者の証言から、イップスの深刻な症状や改善策を探っていきたいと思う。最初に登場いただくのは、かつて日本ハムのエースとして一時代を築いた岩本勉氏。

小学生の頃からイップスに苦しんでいたと明かす岩本勉氏小学生の頃からイップスに苦しんでいたと明かす岩本勉氏 背中越しに舌打ちが聞こえてきた。

 マウンドから後ろを振り返る。二軍に落ちてきたばかりの内野手が、敵意をむき出しにして「おい、お前何回走らすねん」とすごんできた。

 簡単な練習のはずだった。バント守備のフォーメンションプレー。手加減したボールを投げて、打者にバントさせる。ただそれだけのことだった。しかし、その簡単なはずの力加減がわからない。力をセーブして確実にストライクを取ることは、全力投球でストライクを取ることよりもはるかに難しく感じられた。

 投げては「ボール」の宣告を受ける、その繰り返し。先輩内野手の舌打ちは執拗に続いた。いつしか練習に加わっていた投手陣全体に制球難は広がり、最後にはストライクを取れる投手がひとりもいなくなってしまった。

「イップスっていうのは、猛毒の伝染病ですからね」

 25年前の記憶を掘り起こしながら、岩本勉は冗談めかして笑った。

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