阪神・秋山拓巳、8年目の「脱スピード」で蘇った高校時代の凄いキレ (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 そんな秋山がプロに入ってからは、どんどん"力任せ"になっていたから心配していた。

 プロ1年目からいきなり4勝を挙げたが、周りを見れば、自分よりスピードのあるボールを投げる投手ばかり。プロに進んだほとんどの投手がそうであるように、秋山も追い立てられるように"スピード"を欲しがったのだろう。

 見るたびに、フォームにしなやかさが失われ、ファームで2安打完封したかと思ったら、次の試合では3イニングもたずにKO。力に頼って投げる投手特有の「投げてみないとわからない」というピッチングが何年も続いていた。

 そんな秋山が、今年は速い球を投げようとしていない。モーションを起こすと、その刺激で全身の連動が自然に始まり、体が勝手に反応して腕の振りへとつながっていく。自らの意思で力を入れようとしていないから、全身の関節が自由に、そして存分に回転して、見ていても「楽そうだなぁ......」と思うフォームができあがった。

 体幹の強さを存分に生かした腕の振りから、145キロ前後のストレートがホームベース上でも勢いを失うことなく打者のスイングを圧倒する。間違いなく投げるコツをつかみ始めている。

 秋山が育った西条は、静かな佇まいの古い町だ。駅前の広場には、澄んだ清水がこんとんと湧き出て、秋山が腕を磨いた高校は掘割をめぐらせた陣屋跡のなかにある。そんな穏やかな町で悠々と育った。

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