打てているのに「これじゃない」。T-岡田とのバッティング禅問答 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro



 まず目に止まったのが、バッティングフォームだった。バットのヘッドを捕手方向へ寝かせ、左手と右手の間を離してグリップを握り、テイクバックのときに左手を右手につけスイングする。イメージするのは、古くは"天秤打法"の近藤和彦や、最近の選手なら巨人の松本哲也の打ち方だ。

 この打ち方の特長は、バットを振り出す角度を安定させ、球を捉える精度を高めることだ。ただ、岡田のような長距離砲がこの打法に取り組むイメージは薄く、それだけ「ボールを捉えたい」という、なりふり構っていられない状況を想像させた。

 この"新打法"で開幕3打席目に京セラドームのライト5階席へ飛び込む特大のアーチを放ち、さらにその2日後の試合でもライトに文句なしの一発をぶち込んだ。この活躍が続けば"新打法"がトレンドになるのではないか......そう予感せずにはいられない会心の2本だった。しかし、本人の気持ちはまったく別のところにあった。

「(バットを寝かせる)あの形で振ると、上と下のバランスがいいんです。僕の場合、バランスがいいときは、そんなに力を入れて振っているように見えないんです」と岡田が語ったように、力感を消したようなスイングから圧巻の飛距離を出した開幕戦での一発などは、上半身と下半身のバランスが完璧に取れた、まさに理想のバッティングのように思えた。

 見た目で言うなら、チームメイトの吉田正尚のフルスイングとは対極にあると表現したくなる静かなスイング。間違いなく今年はこのスイングでいくのだろうと思っていたのだが、ある試合からいつものようにバットを立て、グリップも構えの段階から左手と右手をつけていた。これに対する岡田の見解はこうだ。

「バランスはいいんです。でも、この形だとバットのしなりを感じないんです」

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