この世界で終わりたい。元ソフトバンク白根尚貴のトライアウト (3ページ目)

  • 菊地高弘●文&写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 高校時代の恩師である野々村直通氏(前・開星高監督/現・教育評論家)は、トライアウト受験を決意した白根から連絡を受け、こう激励したという。

「お前の人生なのだから、球団とちゃんと話し合った上で、やりたいようにやれ。トライアウトで結果を出すことも大事だが、見る人は取り組むまなざしや姿勢も見ている。なまけたプレーをしていたら、それはすぐに伝わる。命懸けでやりなさい」

 11月10日、静岡・草薙球場で行なわれた12球団合同トライアウト。白根は7回バッターボックスに立ち、3本のヒットを放った。

 特に目を引いたのは、1打席目。藤江均(前・楽天)から放った打球は左中間にぐんぐん伸び、フェンスを越えてスタンドに跳ね返って、グラウンドに戻ってきたように見えた。結果は「二塁打」とされたが、近くで見ていた複数の目撃者も「フェンスを越えていた」と証言した。あいにくトライアウトの結果は公式記録ではなく、ビデオ判定があるわけでもない。「幻の本塁打」となった。

 3打席目は上野大樹(前ロッテ)と対戦。外のボールゾーンに逃げていく誘い球のスライダーをしっかりと見極めて、次のボールをライナーで右中間に弾き返した。ボールが芝生を転々とする間、白根は懸命に足を動かして長駆三塁を陥(おとしい)れる。高校時代には考えられない、溌剌(はつらつ)とした激走だった。

 さらに6打席目には、ソフトバンクの同僚だった中村恵吾からセンター前に抜けるヒット。あわやサイクルヒットという3安打で、野手陣の中では飛び抜けた存在感を放った。

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