両親に「初休業」を決断させた、鈴木尚広19年目の「初球宴」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 そして鈴木の盗塁に関する考え方で、最も特徴的と思える部分を、前出の著書から引用したい。

<相手ピッチャーのモーションに対応してスタートをするということではなく、自分がスタートをきるのに合わせてピッチャーがモーションを起こす……そのくらいのイメージを持って臨む。そういう勝負なのだ、と私は考えています。>

 もはや「仙人」の領域といっていいだろう。本来、ランナーとは受動的なものだ。投手の動きに合わせてスタートを切ったり、帰塁しなければならない。だが、鈴木は、あくまで「自分主体」という考え方のランナーなのだ。

「ランナーはどうしても受身になりやすいんですが、ピッチャーに『合わせる』ということは、かなり難しいんです。うまく合わせたと思っても、動いた上での反応なので、どうしても若干のズレが出てくる。そのズレが僕らにとっては命取りになります。だから、常に『自分がいいスタートを切れている』というイメージでやっています」

 鈴木の超人的な考え方を可能にしているのが、徹底した体のケアだ。試合開始7時間前に球場入りして、バランスボールの上に立ってスクワットをするなど、「体を緩める」トレーニングをする。たまの休日は神奈川県横浜市のパーソナルトレーナー・岩館正了(いわだて・まさる)氏を訪ね、コンディションを整えている。

 このストイックな姿勢は、両親から受けた影響が大きい。鈴木の両親は福島県相馬市で精肉店と焼肉店「すずや」を経営し、30年以上にわたって盆も正月もなく、年中無休で働き続けているという。鈴木は毎日トレーニングを続ける理由を語った。

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