ローテ入りへ、斎藤佑樹が身につけたい「山本昌の技術」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 ふと思い出したのは、ドラゴンズのキャッチャー、小田幸平の言葉だ。長きにわたって山本昌のボールを受け続けてきた小田が、こんな話をしていたことがある。

「昌さんのまっすぐは日本一、速い。しかも不思議なことに140キロが出てる時よりも、133~135キロくらいの方が速く見えるんです。そのくらいのスピードのときの軌道が、昌さんのボールを日本一の速さに見せるんでしょうね。これこそ、技術です」

 山本昌も以前、こんな話をしていた。

「最近は昔の糸を引いたような、打ちづらそうな球筋はなかなか出なくなりました。全盛期はピシッと投げ切って133キロ。でもバットがピクリとも動かない、そんなボールを投げられてましたからね」

 133キロの真っすぐなのに、バッターのバットがピクリとも動かない。
 133キロの真っすぐが、日本一、速い。

 そのカラクリは、腕の振りとスピードのギャップにある。

 140キロの腕の振りで140キロのボールが来れば、バッターのタイミングは合う。それは、160キロの腕の振りで160キロのボールが来ても同じだ。 バッターは腕の振りに合わせてタイミングを取る。しかし、140キロの腕の振りで135キロのボールが来ると、バッターはタイミングを合わせづらくなる。つまり、山本昌には、その技術が備わっているのだ。斎藤が目指すべきはここだと思う。

 この日の斎藤は、143キロの腕の振りで143キロのストレートを投げていた。

 上体に力が入り、下半身とうまく噛みあわない。結果、左足に体重が乗りきらず、腕だけでスピードを出しに行ってしまう。

 だから、ボールはいいのに結果が伴わなくなる。スピードは出るのに、打たれてしまうのだ。しかも143キロの腕の振りで変化球を投げると、スライダーも抜けて、高く浮く。試合後の斎藤がこう言っていた。

「真っすぐはよかったと思います。でも、まっすぐに力が入っちゃうから、変化球にも力が入っちゃう。で、全部が抜けちゃうというか……真っすぐに意識が寄りすぎているのかもしれません。もっと真っすぐに遊びがあった方がいいんですよね。真っすぐを100パーセントでパンパーンと行くと、本来は抜かなきゃいけない スライダーも、抜き切れなくなって、引っ掛けちゃうんです」

 勝ちたい、結果を出したい、見るものに安心感を与えたい、次も1軍で先発したい。

 ピッチャーの本能が、斎藤を力ませてしまう。

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