斎藤佑樹、嬉しくなかった登板で得た最大の収穫 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 一軍で投げろと言われて、「嬉しかった」とコメントする斎藤の顔は、ちっとも嬉しそうではなかった。不安が勝っているのも当然だろうし、今の時点で、一軍で戦えるボールをまだ投げられていないことは斎藤自身が誰よりもわかっていたはずだ。中途半端な状態で一軍のバッターに火だるまにでもされたら、これまで取り込んできたことが揺らいでしまうのではないかと、こちらも余計な心配までした。斎藤と二人三脚でフォーム改造に取り組んできた中垣征一郎トレーニングコーチはこう話していた。

「どんな結果になろうとも、ここまでやってきたことを信じていれば、斎藤がブレることはないと思います」

 もう一度、マウンドで輝くために。
 これまでにやってきたことを信じるために。
目指してきた方向が間違ってないと、確信するために。

 斎藤は335日ぶりに、一軍のバッターにボールを投げ込んだ。平野恵一への初球──。

 これがなんと、141キロも出てしまった。

 幸か不幸か、斎藤は栗山監督の思惑通り、一軍のバッターと対峙することでアドレナリンを噴出させた。力んでいるつもりはなくても、自然と力んだのだろう。いいピッチングをするということを考えたとき、今の斎藤にとって、力むことでプラスに働くことはない。力むと、斎藤に何が起こるのか。そのデフレスパイラルはこういうことだ。

 強いボールを投げようという意識が強くなると、テークバックのところで力が入る。

 テークバックで力むと、上体が反っくり返るように浮いてしまう。

 上体が浮くから、右腕が遠回りをする。

 遠回りをすれば腕の軌道がコンパクトでなくなり、ボールを持つ時間が短くなってリリースポイントがバッターから遠くなる。
 
 リリースのタイミングが早すぎると、投げるボールの弾道がブレる。

 その結果、ボールが高く浮く。高く浮くから軌道を修正しようとして、今度は低めに引っ掛けてしまい、ワンバウンドになる。

 この日の試合でも、その繰り返しだった。

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