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【大谷翔平】ドジャース投手コーチが語る「球種配分&投球フォーム」の変化に伴う向かうべき「未来像」 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【来季以降は本格的に先発も今季はクローザーで二刀流か?】

 興味深いのは、マギネス投手コーチが「大谷には2シームがより適している」と明言している点だ。しかし現状、大谷は4シームを40.5%と多用し、2シームはわずか8%にとどまっている。参考までに、ナ・リーグで現時点の最優秀投手と目されるポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)も、今年から2シームを投げ始めており、4シームが39%、2シームは9.3%の割合だ。腕の角度は23度と低く、スイーパー、スプリット、チェンジアップなど多彩な変化球を組み合わせている。

 大谷は、スキーンズのような進化を遂げ、2026年から2027年にかけてサイ・ヤング賞を争う可能性も十分にあると思う。しかしながら今季に限って言えば、すでに山本、スネル、グラスノー、カーショーという布陣がそろっている。大谷が無理にポストシーズンのローテーションに割って入る必要はない。そもそも大谷はここまで10試合に登板しているものの、一度も5イニングを投げきっておらず、先発投手としての経験値もまだ乏しい。

 その弱点が露呈したのが、現地8月20日(日本時間21日)のコロラド・ロッキーズ戦だった。試合が行なわれたデンバーは標高約1600メートルの「マイルハイ・シティ」。空気が薄いため変化球が曲がりにくく、速球の軌道も安定しない。これまで数多くのメジャー投手が苦しんできた鬼門で、大谷も同じ洗礼を受けた。MLBのデータ分析サイト『ベースボール・サバント』のデータによると、この日の大谷は平均球速95.4マイルの「カッター」を7球投げたと記録されているが、実際にはすべて直球だった。

 試合後、大谷はこう振り返った。

「真っすぐがカット気味に動いていたので、ウィル(スミス捕手)のスライダーの要求が多かったのかなと思います」

 問題は、それを自覚した時にいかに試合の中で修正できるかだ。しかしこの日の大谷には、そのための"引き出し"が足りなかった。

「ブルペンでボールが動かないことはしっかり理解したうえでマウンドに上がっているので、言い訳にはなりません。自分の投球内容として、思うようにいかないときにひとつでもふたつでも工夫できることが増えればいいと思いますし、イニングを重ねるなかでもう少し先発投手として引き出しを増やしていければ、結果も変わっていたのかなと思います」

 さらに大谷は「チームに申し訳ない。自分の投球に不満があるというか、情けない投球内容だったと思います」と悔しさをにじませた。

 先発投手として完成形に近づくまでには、まだ試行錯誤が必要なのだろう。その一方で、今季に関してはまず「1番・DH」として打線をけん引しつつ、WBCのように大事な試合でクローザーとして起用されるのが現実的なシナリオなのかもしれない。そしてそれは、WBC同様、前代未聞の出来事として、大きな盛り上がりを呼ぶのは間違いないのである。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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