【大谷翔平】中継ぎ降板だとDH継続不可 「クローザー」案浮上と復帰後の投球内容に見る31歳の変化の凄み (2ページ目)
【31歳にして20代の頃を凌ぐ投手へ】
大谷について注目すべき点は、いまだ不確かなのはポストシーズンでの起用法だけではない。ロサンゼルス・エンゼルス時代と比べると、投球フォームや球種の選択、直球の速度に至るまで著しい変化を遂げており、31歳にして20代の頃を凌ぐ投手への進化を目指していることだろう。
まず注目すべきは直球の速さだ。かつてはセットポジションから投げていたが、今季はノーワインドアップに切り替え、全身を使ったダイナミックなフォームで投げ込んでいる。その結果、平均球速は自己最高の98.2マイル(157.1キロ)を記録。これは2023年の96.8マイル(154.9キロ)から約1.5マイル、これまでの最速だった2022年の97.3マイル(155.7キロ)からも約1マイル上回っている。今季のメジャー先発投手のなかでもトップ5に入る数値だ。6月28日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦では自己最速となる101.7マイル(162.8キロ)を計測し、エンゼルス戦では旧友マイク・トラウトを100.7マイル(161.1キロ)の直球で空振り三振に仕留めた。回転数も2434rpm(1分あたりの回転数)と自己最高を更新しており、2023年の2259rpmから大幅に上昇している。威力が増せば、当然使用頻度も高まる。実際、今季のフォーシーム使用率は45%と、2023年の32.9%から大きく伸びている。
投げる球種も変わった。大谷がメジャーに来た当初、彼のスプリッターは最大の武器だった。2018年、大谷はスプリッターで59打席中35三振を奪い、被打率はわずか.036。次のフルシーズンとなった2021年には、138打席で78三振をスプリッターで奪取。被打率は.086だった。当時、大谷は約20%の割合でスプリッターを投げていた。だが今はその使用率はわずか3.4%。しかもかつては左右両方の打者を仕留める決め球だったのに、今年は左限定の球になっている。
では、スプリッターに代わる決め球は何か? それはスライダーとスイーパーで、空振り率はそれぞれ51.4%と37.5%である。大谷の速いスライダーは切れ味鋭い。平均86.9マイル(139キロ)で、通常のスライダーより縦に約2インチ(5.1センチ)さらに沈む。大谷は2022年後半に投げ始め、2022年・2023年はいくらか混ぜる程度だった。しかし2025年は投球の12.6%をスライダーが占め、すでに11三振を奪っている。
球種の変化には、投球時の腕の角度が下がってきたことが大きく影響している。メジャーに挑戦した当初から2021年まではおよそ45度だったが、年々低くなり、今季は35度にまで下がった。サイドスローに近い投げ方は横方向の変化を強める傾向があり、スライダーやスイーパーには適している。一方で、スプリットには向かず、コントロールが安定しにくいという課題もある。
つづく
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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