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【MLB】大谷翔平に憧れた金慧成(キム・ヘソン)がドジャースでデビュー アジア系野手台頭の時代は来るのか? (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【大谷に憧れてメジャーリーグを目標に】

 この試合を取材していた韓国のメディア『MKスポーツ』のジェイホー・キム記者は、MLBを10年以上取材してきたベテランだ。彼に「大谷翔平の成功が若い韓国人野手に影響を与えたか」と尋ねると、こう答えた。

「間違いなく与えています。大谷は韓国でも非常に人気があります。みんな彼のプレーを見て刺激を受けていますし、多くの若い選手が『自分もMLBで活躍したい』と思うようになりました」

 アジア系の野手は、アメリカや中南米の選手に比べて先天的にパワーに劣るとされ、MLBで成功するのは難しいと言われてきた。だが、大谷がバットで頂点に立ったことで、その意識は大きく変わりつつある。そして、大舞台でその変化を象徴するように最初の一歩を踏み出したのが、ドジャースの金だった。

 オフにドジャースと3年総額1250万ドル(約18億7500万円)で契約を結んだ。守備力と俊足には高い評価が寄せられていたが、打撃面には不安もあった。韓国プロ野球(KBO)での通算打率は.304と優れていたが、MLBでどこまで通用するかは未知数だった。

 2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で韓国代表として共にプレーしたドジャースのトミー・エドマンは、こう語る。「2年前よりもフィジカルが向上し、パワーもついているように見えます。MLBでは速球のスピードが上がるため多少の適応は必要になりますが、彼のスイングは空振りが多い選手のように極端に大きくはないので、対応できるはずです」。

 もっとも、春季キャンプでは苦戦が続いた。オープン戦では29打数6安打(打率.207)、1本塁打、11三振と結果を出せず、スイングの見直しが必要と判断され、開幕は3Aオクラホマシティで迎えることとなった。「スイングの基礎的な部分そのものに改善が必要だった」と、ブランドン・ゴームズGMも説明している。

 しかし、金の成長は想像以上に早かった。3Aオクラホマシティでは打率.252、5本塁打、19打点、OPS.798という成績を残し、13盗塁も記録。持ち前のコンタクト能力を維持しながら、打球の質を大きく改善させた。「以前はスイングのたびに体が上に浮いてしまっていて、自分の持つパワーをうまく使いきれていなかった」と語るのは、打撃コーチのロバート・バンスコヨック。「その点を改善できたのは大きかったし、全体として機能的なスイングに仕上げることが重要だった」と振り返る。

 そして今回、開幕から約1カ月半遅れて、ついにメジャーデビューを果たした。当初、ドジャースの計画では、メジャーの雰囲気を経験させるために1週間だけ帯同させ、再び3Aに戻す予定だった。しかし、デビュー戦での活躍がその方針を変えさせた。「いきなり出てきてヒットを打ち、複数安打を記録し、守備でもいいプレーを見せてくれた。見ていて本当にワクワクする存在」とロバーツ監督も目を細めながら語っている。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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