大谷翔平の走力をメダリスト朝原宣治が分析。「股関節と肩甲骨の使い方がうまい」 (2ページ目)

  • 中村計●取材・文 text by Nakamura Kei
  • photo by Kyodo News

【「加速」のイチローと「初速」の大谷】

――野球選手は投げること、打つことに関しては小さい頃から事細かに指導を受けますが、走ることに関してはそこまで教えてもらっていないと思うんです。それができるのは、やはり天性のものなのでしょうか。

「そこは本人に聞いてみないとわかりませんが、中高生に『体の中心から動かせ』と言ってもなかなかできないですからね。大谷選手は股関節と肩甲骨の使い方がうまいのでしょう。普通、あれだけ足が長いと、長い棒を振り回すような走りになりがちなんです。でも彼は末端を振り回すのではなく、体の中心から末端に力を伝えている」

――高校時代から、あんなに体が大きいのに、その大きさを感じさせない動きができると評判でした。その秘密は、そのあたりにあるんでしょうね。

「体の一部分が強いのではなく、体全体がバランスよく、強いんでしょうね。陸上でも、体が大きな選手は力が外に逃げてしまうと重たいだけになってしまいがち。でも、大谷選手はそうなってないですもんね」

――二塁から三塁への盗塁は、私も動画を見て、あんなに跳ねているんだと、初めて気がつきました。

「彼は本能的に初速の出し方を知っている気がします。じっとした状態からスタートするより、反射の力を利用したほうがスピードは出ますから。二塁は、(野手のベースカバーが必要なので)ピッチャーのけん制球もそこまで速くない。だから、ああやって、ぴょんぴょん跳ねる余裕があるんでしょうけど、跳ねて飛び出すタイミングも絶妙なんですよね」

――盗塁に対し、打ってから一塁までの走りは、どうなのでしょうか。

「二盗、三盗の場面と走り方が大きく変わりますね。彼は長距離打者なので、(大きな振りで)バコーンって打つ。そのとき下半身を踏ん張るので、足が伸び切ってしまう。そこから走り出すので、足が後ろに流れやすい。また、(アウト・セーフがギリギリなプレーで)気持ちが焦ると、前傾姿勢がひどくなる。そうすると、さらに足が前に出てこなくなるんです。そこが大谷選手の課題とも言えますが、あの大きな振りから盗塁のときのようなフォームにするのは難しいでしょうね。

 よく比較されますが、イチロー選手の場合は、打つ際に下半身を大谷選手ほど踏ん張らない。なので打ったあと、そのまま走れる感じ。動き出しがはるかにスムーズです。そこはヒットを量産するイチロー選手と、ホームランバッターである大谷選手の決定的な違いでしょうね」

――イチロー選手と大谷選手の違いは、盗塁のときも見られますか。

「なんて言えばいいのかな、イチロー選手は流れで走っている感じがしますね。うまく体を崩しながらスタートして、徐々にピッチを上げていっているように見えます。その点、大谷選手のほうが体の切り返しが速い。だから、動き出しが多少遅れても、最初からスピードに乗れるんだと思います」

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る