秋山翔吾のドラフト秘話。衝撃のホームランと家族の絆のエピソード (2ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 そして秋山に関して、もうひとつ忘れられない出来事がある。ドラフト当日、あるテレビ局の特番で秋山を取り上げることになった。母親が女手ひとつで育てた息子がプロに指名されるまでを追う内容で、秋山の承諾を得に八戸大のグラウンドまで行った。最初、こちらの来訪の意味を理解しかねてポカンとしていたが、わかってからも「本当に僕でいいんですか? 指名されるかどうかわからないですよ」と否定的だった。

「秋山くんが指名されなかったら、今年のドラフトでほかに指名される外野手はいないよ」と言って、ようやく「そうなんですか......」と納得してくれたが、堂々としたバッティングと、この自信なげな表情がじつに対照的だった。

 じつは、秋山の指名を信じきれていなかったのは本人だけじゃなかった。テレビ局の担当者もなかなか本気にしてくれなかった。番組としてはいくらいい話があっても、「指名されませんでした......」では放送する甲斐がない。

 ドラフトの日が近づくにつれて、「本当に指名されるんですよね!」と担当者の口調も一段と厳しさが増していった。「秋山が指名されなかったら、ほかに指名される外野手なんていませんよ」と秋山本人に伝えたのと同じ言葉を返しても、おそらく半信半疑だったと思う。

 それほど当時の秋山は、全国的には無名の"地方リーグの好選手"に過ぎなかった。

 そしてドラフト当日、生放送の番組が進行していくスタジオのセットの裏で、指名の行方を見守るスタッフたちに"衝撃"が走ったのは、2巡目の指名が始まってまもなくだった。

 ソフトバンクが広島経済大の柳田悠岐を指名したのだ。

 ドラフト当日までにこちらが得ていた情報はこうだった。八戸大のグラウンドに熱心に足を運んでいたのはソフトバンクと横浜(現・横浜DeNA)。そして監督宛てに指名の意志を伝えていたのはソフトバンクだった。ならば、ソフトバンクが3位か4位あたりで獲得するだろう......そんな予想で指名の展開を見つめていたところ、柳田の名前が先に呼ばれた。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る