【MLB】『3番イチロー』は80年代カージナルス旋風の再来か? (2ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 しかし、昨年のイチロー選手のOPSは自己最低の.645でした。この値はメジャー全体で規定打席に達した145人の選手のうち、137番目の数字です。しかも、2009年のOPS.851から年々、数字は下がっています(2010年=.754、2011年=.645)。さらに年齢は今年38歳。現在のメジャーの流れでいえば、『3番イチロー』は考えにくい打順だといえるでしょう。

 それでもマリナーズのエリック・ウェッジ監督は、『3番イチロー』を明言しました。それはおそらく、カージナルスと同様に、本拠地のセーフコフィールドは外野が広く、ホームランバッターに不利な球場ということで、俊足で出塁率の高い選手を上位打線に並べて得点力を上げようという狙いがあるのではないでしょうか。

 1番を予定しているショーン・フィギンズは、エンゼルス時代も1番バッターとして高い出塁率を誇り(2007年=.393、2009年=.395)、チームの地区優勝に貢献しました。また、2番を打つ予定のダスティン・アクリーも、昨年は.348という高い出塁率を残しています。ふたりとも素晴らしいスピードを持っているので、彼らを本塁に返し、かつ得点圏に進むことが『3番イチロー』の役割となるのではないでしょうか。

 少ない本塁打数で100打点以上稼いだ選手は、過去にも何人かいました。1931年にはピッツバーグ・パイレーツの大スターだったパイ・トレイナーが2本塁打で103打点を挙げ、1943年にはブルックリン・ドジャースで殿堂入りしたビリー・ハーマンも2本塁打で100打点を記録しています。しかし、時代とともに野球のスタイルも変化し、クリーンアップは本塁打の打てる選手が並ぶようになりました。

 それでもパワー全盛となった80年代、カージナルスの機動力野球は異彩を放ち、そして成功を収めました。そして現在、メジャーの流れは再び、パワーからスピード重視の野球に戻りつつあります。真っ向勝負で同じ地区のエンゼルスやレンジャーズと対抗しても、マリナーズは戦力的に厳しいでしょう。しかし、スピード重視のスタイルで勝つことができれば、今年、マリナーズはメジャーで大旋風を巻き起こせるかもしれません。

 プホルスやハミルトンといったメジャー屈指のパワーを擁する『3番』と、イチロー選手のスピードあふれる『3番』は、まったく意味が違います。そういう視点からも、『3番イチロー』は、非常に楽しみですね。

プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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