夏の甲子園でヒットを目指した「地方大会打率0割台」8人の物語...悔しさと苦しさと恥ずかしさと
石橋戦でヒットを放った聖和学園・鈴木健人 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【甲子園初出場も喜べたのは70%】
「優勝した瞬間はうれしかったですけど、正直、悔しさがありました。100%うれしかったかというと、そうではない。喜べたのは70%ぐらいです」
聖和学園(宮城)のライト・鈴木健人はそう言う。
仙台育英を破って甲子園初出場を決めたというのに、なぜ、素直に喜ぶことができなかったのか。それは、宮城大会で1本もヒットが打てなかったからだ。5試合に出場して、9打数0安打。決勝の仙台育英戦でチームは19安打と爆発したが、鈴木はスタメン落ち。途中出場したが、1打数0安打に終わった。
「周りからめちゃくちゃいじられました。『0割』とか。でも、事実なんで」
試合後、片づけをしている時間や球場から帰るバスのなかでは自然とバッティングのことを考えてしまった。
「調子が悪いと考えちゃいますね。考え込んでしまうタイプなんで」
打てない原因はわかっていた。打ちたい気持ちが強いあまり、体が前に突っ込み、打つ前から体勢が崩れていたのだ。
「チームは前に進んでいるので、いつまでも気にしていたらダメだなと。指導者に見てもらいながら、しっかり(体重を軸足に)残すことだけ意識して練習しました」
そして甲子園初戦、石橋(栃木)戦の第1打席、鈴木のバットから快音が響いた。ライトへのクリーンヒット。この夏、初めて「H」ランプを灯した。
「練習で状態も上がっていたし、ファーストストライクからしっかり振れた(ファウル)ので、いけるなと。不安がなくなりました。ホッとしました」
打率.000──鈴木のように、地方大会でヒットを打てずに甲子園に来た選手は3人いる(10打席以上/以下同)。開幕戦(滋賀学園戦)に登場した有田工(佐賀)のキャプテン・前田壮梧もそのひとり(13打数0安打)。
1対3で迎えた4回裏、一挙3点を取って逆転した味方の勢いに乗って初ヒットを記録すると、6点リードされた9回裏にも、先頭打者としてセンター前にヒットを放って味方を鼓舞。2点を返す起点となった。
「県大会は打てなくて苦しかったです。県大会は消極的になっていたし、打とうとしすぎていた。甲子園では、楽しまなかったらもったいないという気持ちに変えました。チームメイトが声をかけてくれて力になりました」
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著者プロフィール
田尻賢誉 (たじり・まさたか)
1975年、神戸市生まれ。学習院大卒業後、ラジオ局勤務を経てスポーツジャーナリストに。高校野球の徹底した現場取材に定評がある。『明徳義塾・馬淵史郎のセオリー』『弱者でも勝てる高校野球問題集173』(ベースボール・マガジン社刊)ほか著書多数。講演活動を行なっているほか、音声プラットフォームVoicy(田尻賢誉「タジケンの高校野球弱者が勝つJK」/ Voicy - 音声プラットフォーム)でも毎日配信している。