【夏の甲子園】広陵の試合の流れを変える控えの「仕事人」たち 背番号10のサウスポー、代打や足のスペシャリストも

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro

【ベンチに控えるスペシャリストたち】

 大会6日目に行なわれた広陵(広島)対熊本工業(熊本)の名門対決は、見応えのある投手戦となった。

熊本工業戦で決勝タイムリーを放った広陵の浜本遥大 photo by Sankei Visual熊本工業戦で決勝タイムリーを放った広陵の浜本遥大 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る

 5回が終わった時点で、熊本工業が1点リード。優勝候補の一角と目される広陵は3安打に抑えられていた。四番の只石貫太から始まる6回表の攻撃も、ふたつのフライアウトとサードゴロで0点に終わった。

 中井哲之監督はよく"動く"監督だ。先発で起用した野手を試合途中で交代させることは珍しくない。中井監督がこの試合を振り返る。

「先に点を取られて後手後手に回ったら、選手たちは焦ってくる。ポンポンとフライを打ち上げたら、相手がエラーすることもないし」

 6回表、1点リードされた重たい展開から脱したいところで、あっと言う間にチェンジ。そのあと、広陵ベンチが動いた。

 7回表ノーアウト一塁で、広島大会で6試合に出場した白髪零士が代打に立ち、四球を選んでチャンスを拡大した。続く九番・高尾響の送りバントでランナーは二、三塁に進んだ。

 そこで一番打者の浜本遥大が逆転のライト前タイムリーヒットを放ち、2対1。だが、追加点を奪いたい8回表はクリーンナップが三者凡退となった。そんな厳しい展開に、控え選手は出番を待ちながら準備していた。

 9回表に、また中井監督が動く。

 広島大会で6打数5安打と驚異的な活躍を見せた"代打の切り札"松村悠叶を打席に送る。スタメンの選手たちが打ちあぐねた熊本工業・山本凌雅からセンターオーバーのツーベース。その松村の代走として起用されたのが空輝星だ。

 空は広島大会6試合すべてに代走で出て、3盗塁した走りのスペシャリストだ。送りバントで三塁に進んだ空がホームを狙う。八番・白髪の打席でスクイズのサイン。ファウルになったが、空の俊足でスタンドがざわめいた。追加点は奪えなかったものの、ベンチは活気づいた。

 9回裏、エラーからサヨナラ負けのピンチを招くが、ワンアウト二、三塁で高尾が踏ん張った。2連続三振を奪い、中井監督に甲子園通算40勝をプレゼントした。

 試合後、浜本はこう言った。

「1年の時から高尾と只石の活躍で勝ってきましたが、ふたりに"おんぶにだっこ"のままでは自分たちは成長できない。広陵は高尾と只石だけのチームじゃないという気持ちで、野手は練習してきました」

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著者プロフィール

  • 元永知宏

    元永知宏 (もとなが・ともひろ)

    1968年、愛媛県生まれ。 立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。 大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。著書に『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)、『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)など多数。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長

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