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「プロ野球選手→高校監督」の先駆者・大越基の信念。「甲子園出場=いい指導者という考えはない」 (6ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

「仙台のテレビ局の企画で、試合前日の割り当て練習の会場に竹田先生が来てくれて。カメラが回るなか、1時間半の練習を見て、『今から宿舎行ってもいいか?』と私に耳打ちされたんです」

 大越が「え?」と返すと、竹田は「大越これじゃまずい。明日の試合まずい」と返した。

 宿舎に着くと、竹田は『大越、オレに2時間くれ』。選手を集めて、優しく「おまえたち緊張してないか? しているものは手を挙げて』と語りかけた。大多数の部員が手を挙げると、「大丈夫。おまえたちの監督は何回も甲子園に出ているし、オレもそれを見ている。明日、苦しくなったら監督を見なさい。監督はそういうこと全部わかっているから」と続けた。

「明日甲子園の室内練習場に入ったら、腹から大きな声で『僕、緊張してます!』と言いなさい」

 最後にこう言葉をかけると、最初は強張っていた選手の顔がみるみるうちに笑顔に変わっていった。大越が言う。

「翌日、実際に選手が『緊張してます!』と大声で言ったら、引率の高野連の方も大笑いするくらい和やかなムードになって、いい形で試合に臨むことができました」

 試合は2対5で敗戦。エースが故障で先発できない状況、地力の差を考えれば、大善戦と言っていい内容だった。指導者としての甲子園初勝利を逃したものの、頭に浮かんでいた最悪の結果を免れ、ひとまず胸をなで下ろしていた。それと同時に、大越のなかにある感情が芽生えていた。

「『2回目の出場は相当難しいな』と思いながら下関に帰ってきました。1回目の出場は選手に恵まれていただけで、監督の力でも何でもない。試合前の声がけで、指導者として恩師との力の差を知りましたし、力のなさを痛感させられた。この時に『甲子園に出場するからいい指導者』という考えが自分のなかになくなって。選手の心を掴んで、どうやって導いていくか。そこが長けている指導者になりたい。その結果、甲子園に行くのが理想。そう変えていこうと決めたんです」

 そこから指導のスタイルを変えていった。練習内容について選手と意見を交わすなど、選手目線に立つことを心がけている。

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