甲子園はなくても...高校No.1捕手、日大藤沢・牧原巧汰が描くデッカイ夢 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 一方、牧原にとっては痛恨のミスだった。

「自分は(一塁ランナーを)刺しにいって、三塁ランナーが動いたらセカンドがカットしてホームに投げる予定でした。あれで点を取られて、テンパってしまいました」

 作戦が見事にはまった慶應藤沢ベンチには、「いける」という雰囲気が充満した。その後も連打を重ね、同点に追いつく。さらに牧原を試練が襲う。

 一死二塁から5番・岡見大也がライト前に運ぶと、ライトからバックホームの送球が返ってきた。二塁走者は三塁ストップ。打者走者の二進を防ぐために前に出た牧原だが、捕球しようとしたミットの上部にボールがかすり、そのまま顔面にぶつけてしまう。

 この瞬間のことを牧原は「覚えていない」という。

「ライトからの返球がきたところまでは覚えているんですけど」

 牧原がベンチ裏に下がって治療を受けるため、試合は中断。しばらくすると、右鼻に詰め物をして牧原が帰ってきた。

 山本監督は「あれでは代えられなかった」と振り返る。

「あのままでは負け試合だったので、これを牧原の高校最後の試合にさせるわけにはいきませんでした」

 試合再開後も日大藤沢は相手に傾いた流れを止められない。5回までに慶應藤沢打線に15安打の猛攻を受け、5対8とビハインドで試合を折り返す。

 その後、慶應藤沢の守備の乱れもあり、試合は7回終了時点で8対8の同点になる。しかし、牧原といえば4打数1安打。強風にあおられ、レフト線にポトリと落ちた二塁打だけで、攻守ともに精彩を欠いていた。神奈川独自大会はスカウトの入場が認められていないのだが、今日の牧原を見られなかったことは救いにさえ思えた。

 そんななか、8回表一死無走者の場面で牧原が5度目の打席に入る。マウンドには慶應藤沢の1年生で、中学時代に侍ジャパンU−15代表のエースだった田上遼平。140キロ前後の速球に精度の高い変化球を扱う好投手だ。

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